最終話

 オレと駿は結界の中に侵入した。


 結界の外から見た結界の内部は、黒っぽく変色し、ぐねぐねと曲がった木々が生えていた。

 一言で言うなら、不気味さをそのまま表したような森だった。


「駿、久しぶりだな。先の戦いでは世話になったな。助かったよ」


 オレの隣には駿が立っていた。

 オレと駿はそれぞれの神器を収める。切り札的存在だからな。


「おう! しっかし、結界に入れるとは思わなかった。英語がキーだったのか」

「いや、そうであることを知っていないと開かないらしいぞ。あと、器持ち」

「なるほどなぁ。けど、俺がここで存在できる理由は? 俺は世界から外れたはずだけど」

「ここは、外とは若干位相がずれ……簡単に言うと、別次元のようなものなんだ。向こうでの制約も、こちらでは発揮しない場合があるそうだ。駿もそのケースに漏れなかったようだな。まあ、お前が完全に顕現できるかは運だったけどな」


 オレたちは結界の奥へ歩き出した。

 目的地は、この結界の中心部。

 

 この結界は、上空から見ると円形をしている。

 しかし、そんなに簡単な話じゃない。


 ここに住む魔物は外の魔物とは一線を引く強さを持つ。

 だが……オレたちの敵ではない。精々、神から力を得た、あの……魔物連合隊長級だろう。


 外の世界に存在しない、異常な魔物。

 

「さっそく出てきたな」


 オレたちの前に、奇怪な姿をした魔物が、一度に10体も出てきた。

 よくわからない姿だな。


「駿、静かに殺せるか?」

「任せろ。――『凪』 ――『極爆』」


 駿が音を消す膜で魔物を覆い、極限まで範囲を絞った爆発で木っ端微塵にする。

 音は1デシベルも漏れていない。これはいいな。

 オレではここまで緻密な魔力操作はできない。さすがは【魔】の主。ひゅーひゅー。


「所詮、この程度か」


 駿はつまらん、と言いたげだ。

 駿さん、あんたが強すぎるだけっすよぉ……。






 なんやかんやあり、オレたちは結界の中心部へ到達した。

 奇怪な魔物は見ていて面白かったが、だんだんと気色悪いと思えてきたので、出会いがしら……近くに寄り様に殺してきた。

 どうせ、殺し尽くすことなんかできやしない。


 「この結界内は魔物で溢れかえっている」という理ができてしまっているからな。


 ゲームだよ、この中だけは本当に。


 おまけに、この中心部にあるのは地下迷宮ダンジョンだ。

 この最奥に用がある。近道……裏ルートを使う。


「駿、こっちだ」


 オレはわかりやすい偽物の入り口を少し下り、三段目の階段を思いっきり踏んづけた。

 音が少し響く感じ。ここで間違いなさそうだ。


 オレは少し下り、三段目の階段を押した。

 ゴゴゴ……と音を立てて、1~3段目の階段が奥に引っ込んでいった。


 そこにはぽっかりと縦に続く穴ができていた。

 階段はない。底も見えない。


「蓮、どうすればいいんだこれは?」

「わかってるだろ? ……こうするんだ!」


 オレは穴に落ちていった。

 駿もあとに続く。


 少し落ちたところで、落下のスピードが減少した。


「これは魔法か」

「反作用の力……空気摩擦を大幅に増幅させているようだ」


 四方の壁一面に強い魔力を感じる。

 それがこの反重力を生み出しているのだろう。ああ、空気摩擦増大か。実質的な効果は反重力だけどな。




 そしてようやく、四方の壁が消えた。

 そこは広い空間だった。真っ暗で何も見えない。


「――ぐはっ」

「のわっ」


 そうだった。

 縦一列で落ちたんだ。しかも真っ暗。

 駿がオレの上に落ちてくることを考慮すべきだった。


「す、すまん、蓮」

「いや……オレこそすまん」

「――明かりを出そうか?」

「ああ、頼んだ」


 駿は火の玉を5個、生成し、周囲を照らす。

 光は特性があるせいで、ただの光として使うことはできない。

 ただ、火のエネルギーの大半を光に変換している。触れても大して熱くはないだろう。


「ここが最深部だ」

「あれは……?」


 部屋の真ん中以外、何もない部屋だった。


「あれは…………聖物だ」


 部屋の真ん中には祭壇が置かれており、そこに一本の剣が刺さっていた。

 その剣は柄から頭身まで、闇のような漆黒だった。刀身には八つの玉石が埋め込まれている。


 玉石にはそれぞれ、属性が決まっている。


 火、水、土、風、氷、雷、草、無。


 どの玉石も光ってはいない。とりあえず安心。


「……よかった。聖物は出ていないようだ」


 宝石が光っていた場合、その属性の聖物が所持者を選んだということになる。

 最悪の場合、この親玉自身が所持者を選び、オレたち器を強制召喚するようになっている。


「駿、器を出してくれ」

「ああ……どうするんだ?」

「器があれば、水を注ぐだろ?」


 オレたちは聖物の親玉に神器を向けた。


 すると、聖物の親玉が光り輝きだした。

 その光が収まると、オレたちの神器が光を発した。


「これは……全能力値が2倍?」

「数字もないのに、適当なこと言ってんじゃねーよ、駿」


 オレたちのこれは神。つまるところは器だ。

 神の器、とも取れるが、この場合、器は証でしかない。


 例えば、優勝杯だ。

 優勝杯に酒や水を注いで使う、なんてことはせず、部屋や部室に飾るだろう。オレたちはこの状態だった。


 しかし、これが魔法の器であれば、話が変わってくる。 

 そこに魔力の込められた水を注ぐと、魔法が発動する場合。


 今回の場合、神器に……器に力を注いだ。

 オレたちの強さが倍増した。


「ちなみに、上昇したのは身体能力だけだ」

「けど、なんで?」

「……何に対しての「なんで?」……いや、いいか。それじゃあ、まずは神について話そうか」


 神は、器を失い、かつ(無理やりとは言え)2つの加護を得ていた。

 しかしそれにしては……強すぎた。


「んでも、お前が神器を完全解放したあと、すぐに勝ったじゃないか」

「それはそうなんだが……じゃあ、器を持っていたときを思い出してくれ」

「あ~~、たしかに……【魂】にしては強すぎたな、うん」


 こいつ……。

 まあたしかに、攻撃を受けていたしな。駿の防御能力が優秀で、一枚上手だったからこそ、大してダメージは受けていなかったしな。


「神はここを訪れ、力を得た。まあ、神に戦いのセンスがなかったこと、器が器だったことが幸いし、お前が勝てたのだろうな」


 神の持っていた【魂】は、個の力ではなく、群の力。

 今回の魔物連合がいい例だ。神は配下に力を与え、変化、進化を促していた。


 魔物連合は実際、世界の戦力を3割ほどにまで低下させた。

 種族問わず、な……。おかげで均衡は保たれている。


「さて、これでこの世界での用は済んだ。行こうか」

「そうだな。案外快適だぞ」

「ふっ。オレが更に快適にしてやるさ」


 オレたちは、あの暗い、黒い空間に転移した。

 

「オレも世界から抜けたよ」


 さて、と。それじゃあ、この何もない空間を便利で楽しくしてやりましょう。


「まずは……モニターを展開」


 モニターの中には、世界中が映っている。

 望めば、その場所を映し出す。


「本もいるよな」


 オレは空間の奥の方に、本棚を大量に設置した。

 この世界の本だけではない。


「オレたちがいた世界の本もある。大半がラノベだけどな」


 前世にはあまり干渉できなかった。……が、干渉できるだけ幸運か。図らずも、神のおかげだな。


「おお! ありがてぇ!」


 駿とオレの好みは似ていた。

 駿が好きなものも多いだろう。


「僅かなりとも干渉できているから、新刊が出たら、言う。ラノベと単行本に限定して干渉しているから、それ以上は勘弁してくれ」

「十分嬉しいぞ! ありがとな!」





 この後世界は、【覇王】ターバという男の元、平和的に発展していった。

 あの最後の戦いで残ったのはターバだけだしな。

 それに俺はもう、誰にも見つかることはない。


 ちなみにオレは【最強】だと。ふっ。【最強】ですら倒しきれなかった敵を倒したMVPだからな。


 オレたちは、ただ見守っていた。


 ターバが死んだあとも、彼の遺志を継ぐものが世界を平和に導いていった。


 世界の均衡が崩れても大丈夫だ。

 聖物が、世を、世の均衡を保ち、最悪の場合、神に匹敵する2人の戦士【最強の】オレたちが、世に舞い落ちるのだから。


 オレも、ただの中学生から、出世したものだよな。


 ああ……楽しいなぁ。

 ここでは、望めばなんでも出てくる。


 そう、戦闘相手も………………無限に!!





   ~~完~~

 

 


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〖完結〗戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ 真輪月 @shinrinzuki

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