第10話 失敗した理想郷ソヴィエト連邦

 1848年、マルクスとエンゲルスは、共産党宣言を発表した。万民の平等を求め、資産家の資産を否定し、すべての人が財産を共有しようという思想である。その背景には、拡大する資産家と貧困層の格差が存在した。

 その思想は、人々に素晴らしい思想だと真剣に受け止められ、1917年、ロシアに革命が起こり、世界初の社会主義国家ソビエト連邦が成立した。指導者はレーニンである。

 ソビエト連邦は、共産党一党独裁であり、共産主義による世界同時革命を目指した政府だった。周辺諸国を次々と併呑し、共産主義の波はロシアの冷たい大地から迫り狂った。

 ソビエト連邦の組織を考え出したのも、真面目堅物の理想家たちだった。世界中の資産家は、自分の資産がソビエトに奪われるのを恐れた。

 ソビエトに対抗した勢力は、自由と移民の国アメリカだった。かつては、イギリスの植民地にすぎなかったアメリカは、経済的に大成長をとげ、世界最大の超大国となっていた。それを支配するのは、民主主義の精鋭と資産家である。

 ソビエトとアメリカは、世界を二分して戦い、当時の最先端技術を競った。先に核兵器を開発したのはアメリカだが、ソビエトもすぐに核実験に成功し、二つの国は、地球を焼き尽くすほどの核兵器をもった。この二つの国が戦えば、人類は滅ぶ。核戦争が始まれば、世界は滅ぶ。

 世界の終わりを感じつつあった世界中の人々は、二つの国の戦う局地戦を、慎重な目で眺めていた。

 二つの国は、技術を競い合い、宇宙にまで行った。宇宙技術の進んでいたのはソビエトであり、先に人工衛星を打ち上げ、人類初の宇宙飛行を成し遂げた。世界中の人々が熱狂した。世界初の宇宙飛行士ガガーリンを抱きしめたいという人々でいっぱいだった。

 戦えば、世界が滅ぶという時代になり、強い者などいなくなった。強いやつは本当に強いんじゃない。ただ、核兵器で殺されないように見逃されているだけだ。核兵器により、強さの時代は終わった。

 この二国間のにらみ合いは、74年で終わった。1989年、東ドイツのベルリンの壁が壊され、共産国家だった民衆は、資本主義の国へ逃げた。資本主義の国のが桁違いに豊かだったからである。1991年、ソビエト連邦も解体した。

 頭で描いた理想郷は、またしても空想の産物として終わってしまった。万民が資産を共有するはずのソビエト連邦において、やはり、個人資産というものはあり、盗みもあった。高級官僚は、平民より数倍豊かな暮らしをしていた。理想郷であるはずのソビエト連邦において、人々は、競い合って働くことがなかった。労働者はやる気をなくし、怠惰な労働がソビエト連邦を貧しくさせていた。

 戦えば、世界が滅ぶと、緊張していたアメリカ政府は、滅びたソビエト連邦を見て拍子抜けした。なんと、もろかったのだろうかと。

 ここに、世界を二分する冷戦は終結した。冷戦に勝利したアメリカの動きを世界中が見ていた。アメリカは、人々の期待を裏切り、世界警察国家構想を持ち出し、世界征服にのりだした。まことに許しがたいことであった。

 アメリカの世界征服は必ず阻む。しかし、ヨーロッパで国境線をなくす実験、ユーロが行われた。それが成功していれば、平和的に世界は統一されたかもしれない。だが、どうやら、ユーロも失敗に終わりそうだ。

 理想郷の実現への道は遠く、貧富の差は激しく、人類の未来にはまだ課題が山積みである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おりが選んだ十章からなる世界史 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る