第9話 黒人奴隷解放

 16世紀から18世紀の間に、西アフリカからアメリカ大陸へ連れて行かれた黒人は、一千万人ぐらいだという。当時の世界人口は二億人ほどであるから、人口の5%が貿易によって移動したことになる。

 これは、黒人が白人に黒人奴隷を売ったのであり、白人は奴隷のお返しにビーズの玉を贈った。黒人の支配者は白人のもってくるビーズの飾り物が大好きで、白人に売るために次々と黒人を捕まえて奴隷にしていった。

 あるところに、ブートンという黒人がいた。ブートンは、いった。

「あの肌の白い連中は、大勢の奴隷を買っていくが、いったい、あの白人の連中は何を考えているんだ」

 それを聞いて、白人の奴隷商人は答えた。

「ジャン・ジャック・ルソーの本を読んでいるんだ。人は生まれながらに自由であり、権利において平等であるというようなことが書いてあるんだ。我々商人は、王様に対抗するためにも、こういう思想を学ばなければならないんだ」

「ほう、面白いことをいう。ブートンの村では、王様と奴隷の権利は同じじゃない。もし、おまえたちの国の人々が同じ権利をもって生きているなら、ブートンもおまえたちの国へ行く」

「なら、船に乗れば連れて行ってやるぞ」

 そして、ブートンはアメリカへ行った。足に鎖をつながれて、思うように動けない。毎日、砂糖畑で働くようにいわれて、ブートンは不満だった。

「何かがおかしい。なあ、何かがおかしいぞ」

「ブートン、今日はセックスしないのか。子どもをたくさんつくらないと、支配人に怒られるぞ」

「ブートン、セックスする。でも、なぜ、支配者とブートンの権利は同じじゃないのか」

「さあ、おれは何も知らないからなあ」

「ブートンはいろいろ知っている。今日は、西暦1863年1月1日、奴隷解放宣言をリンカーン大統領が発布した日。たぶん、明日から、ブートンたちの仕事、なくなる」

「仕事なくなったら、どうするんだ? 仕事はない方がいいが、お金がないぜ」

「ブートンには、未来が見える。ブートンたち、黒人、これからもずっとずっと貧しい暮らしをすることになる。白人に蔑まれ、いじめられる。でも、百五十年後には、差別なくなる。そしたら、黒人にも、幸せやってくる。未来はきっときっとよくなる。ブートン、そのために働く」

「でも、白人のやつらは、最初から莫大な財産を持ってるんだぜ。不公平じゃないか」

「ブートンは我慢する。それは、白人が四百年間も、賢く商売をして、お金を貯めたから。それに追いつくには、四百年分がんばらないとダメ。ブートンは、人より四百倍がんばれるから、ブートンが一年がんばれば、たぶん、大丈夫」

 そして、ブートンはアメリカの一市民として暮らしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る