第7話 知恵の実と風神雷神

 それで、以前いらした天候神のヤハウェさんが、

「いやあ、あなたは蛇だったんですか。わたしは蛇とは仲良くやっているんですよ。わたしの作った人間たちに、蛇さんが知恵の実を食べさせてくれたんですよ。おかげで、人間たちは楽園を出ていって、みずから苦難と試練に立ち向かうようになったのです」

 わたしは蛇の仲間がいるというので嬉しくなって、その蛇と会えないかたずねました。

「もちろん、蛇に会うことはできるよ。ただ、あのサタンという名の蛇は、知恵を与えるのが仕事なんだ。知恵なんて手に入れたら、人間はわたしの計画した運命から自由意思によってどんどん離れていってしまう。それは果たして良いことなのか迷うところは正直ある」

 とヤハウェさんはいっていました。ヤハウェさんがいうには、蛇はグノーシスという認識を司る存在でもあるそうです。

「蛇の食べさせた知恵の実は、死を育む実でもあったんだ。わたしの作った人は不死だったけど、蛇に知恵の実を食べさせられたことによって百年とたたずに死ぬことになってしまったんだ」

「はあ。なんか、すごそうな実を世話している蛇なんですねえ」

「うん。本当はもっとすごい実もあるんだけど、それは蛇や人間に与えるわけにはいかない」

「なんなんですか、その実は」

「あらゆる生き物の根源となる生命の樹になる生命の実だよ。これを食べると、すべての生き物を従える楽園の王になれるんだ。だけど、誰にもあげないよ」

「ヤハウェさんは口だけ大きいから、どうせ、あらゆるとかすべてとかは嘘でしょう。どうせ、ヤハウェさんの支配する生き物しか従えられないんでしょう」

「まあ、そうともいえる。わたしは全世界を作ったことになっているからね」

「でも、ただの天候神なのに」

「いやいや。ぼくは時間を超越して活動できるんだよ。全知全能だからね」

「そういえば、うちの国にも全知全能の神がいたかしら。確か、風神と雷神がそうだったはず」

 それで、わたしは風神と雷神を呼んでくれるように国の男に頼みました。男は喜んで風神と雷神を連れて来ました。

「なんじゃい、アマテラスどの」

「あのね。あなたたち、全知全能でしょ。ヤハウェさんの持っている生命の樹みたいなものはもってないの」

 すると風神が答えました。

「わしは運命をもっている」

 雷神が答えました。

「わしは奇跡をもっている」

「それは全世界を創造できたりするの」

「当然です」

「でも、あなたたち、ただの天候神なのに」

「まあ、何ごとも営業ですよ」

「難儀な世の中ねえ」

「わしらは笑いの実というのを持っているです。食べると一生ずっと笑っていられる因果の実です。笑いの実を食べると腹を抱えて笑うようなことしか起こらなくなります」

 そこで、ヤハウェさんがいいました。

「いや、実はわたしの持っている生命の実もその笑いの実と同じようなものですよ」

 風神は水蛇にいいました。

「もし、世界中の人が笑い転げつづけるような素敵なギャグを思いついたら、笑いの実を食べさせてあげますよ。世界が終わるまで全人類が笑っていられるギャグが思いついたら、笑いの実をあげます」

 水蛇はううむとうなってしまった。

「あなたたち、お笑いの神だったのね」

「そうです。全知全能の笑いの神です」

 水蛇はそんな笑いがあったらいいなと夢をふくらませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あまてらす水妖記 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る