第5話「静観」
秘策とは言ったが、俺の作戦はこうだった。
奴らは弱いから開けた場所で焚火を起こして撃退つつ、生存者に居場所を知らせる。まぁ、作戦とは名ばかり程度のものだが個人的には足りない頭でひねり出したのだから理解くらいはしてほしい。
しかし、まぁ。
冷静沈着で知られる我らが吹雪のお姫様は怪訝な表情で俺を見つめる。
「……さすがに、秘策って言えるのかしら? それは……」
「秘策じゃないかも知れないけど……このおんぼろ銃で撃退できることが分かったんだ。野生動物って炎を嫌うはずだし、奴らも嫌いがるかなって感じだ」
「感じだって……私的にはそんなのに命は張りたくないんだけど?」
「俺だって死にたくはないけど、まずは敵を知るってことも大事だろ?」
「……それはそうだけど、まだ私たちこの……おかしな世界で二人きりと言う状況に戸惑っているのよ? そんなこと考えている暇なんてないし、ご飯とかもどうなるか」
「それは地図上でスーパーがあったところに行くしかない」
「地図なんてあるの?」
俺はポケットからスマホを取り出した。
「スマホって……GPSなんてもう、使えないでしょ」
少しは期待していたがまぁ、地図アプリに関しては椎奈の言う通りだった。しかし、今日の俺は少しキレている。
先日、たまたまダウンロードした札幌の地図がストレージに入っているのだ。
「ほら」
「……っ」
地図の表示を見せると椎奈は唖然とする。
「おい、大丈夫か?」
「————っえ、あぁ、ごめんっ」
「何、どうしたんだよ?」
「いや、別に……道長って案外役に立つのねって感心してただけよ」
「……おい、案外ってなんだよ。おいてくぞ」
「そのままの意味よ。褒めてるんだから、ほら、なんとかしてよねっ」
「……」
さすがに今のは俺も腹が立った。いくら冷静沈着で氷のような女でも考えてほしいものだ。
それから俺たちはスーパーがある場所まで歩いた。途中、白骨化した死体やボロボロに食い殺されている動物の死体などがあり、少々胸に来るものがあったが何とか進み続けた。
瓦礫の中からエコバックを拾い、ありったけの食料や飲料を詰めるだけ詰め込み、さらに数時間ほどかけ、道端でライターを拾い、公園の跡地らしき場所で野営をすることになった。
「いざ来てみると怖いもんだな」
「怖いって……道長が言い始めたんでしょ?」
「そ、そうだか……それはそれ、これはこれってやつでなぁ」
「急に頼りにならないこと言わないでくれる?」
「……悪かったな。逆に椎奈には何か秘策でもあるのかよ?」
「……」
「ほらな」
別に彼女を追い詰めたいわけではないが、ここ数時間の移動の疲労のせいか俺も少々苛立っているのかもしれない。
さすがに、冷静にならないと。
その夜。と言っても、時計もスマホも壊れていて正確な時間もわからないが、まぁあさになったきがするので夜に起きたことにしておこう。
というわけで、気を取り直してその夜。
俺たちは一匹のカマキリを誘い出すことに成功した。分かったことは二つ。光にはめっぽう弱いこと。焚き火によってできた光を手で隠していたことがおそらくすなんだろうと思われる。
また、もう一つは体が外部からの刺激にめっぽう弱いこと。光に引き続き、俺が威力の弱い銃弾でやつらを撃退することができたのはそのためであるだろうとも考えられる。
それに、カマキリ関連ではないが小さな虫などの生物などはまだ生きているらしい。死骸も最近のが多そうだし、白骨化している動物の死体があると言うことは分解する生物もいるからだ。
悪い意味でわかったとことすれば、夜と朝の区別が天候によって現れないこと。常に薄暗く、たまにチンダル現象が起きて光の柱が立つ程度。また、川が蒸発しているのかまったく水がないことだろう。
「……そこで、どうするか考えないとな」
「食料と敵を知るのはひとまず大丈夫だとして、他の生存者は見つからなかったし、私、家の方に行きたい」
「確認が取れないしな。学校もあの有様じゃ期待はできないと思うけど」
「それはしってるし、カマキリに食べられそうになったときにちょっと悟ったし」
「……そうか」
「えぇ。でも、とりあえず……行きたいわ」
いくあてはない。
どうなったのかも分からないし、異世界に転生したんだろうとも思いたいほどなくらいだ。ここは椎奈に合わせてみるのもいいのかもしれない。
「おーけー。とりあえず、椎名の家まで目指して今日はそっちで野営しよう」
「……ありがと」
聞こえないほどの小さな感謝は生憎と彼の耳には届かなかった。
今朝、たまたまスカートの中が見えてしまった氷の女王と世界で二人だけになってしまった件。〜世界滅亡編〜 藍坂イツキ @fanao44131406
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