第7話 吸引力が全然衰えない
激痛が走りましたわ。
切れたんですよね、乳輪やら乳首やら、とにかくその辺りが。
相手赤ちゃんですよ?
あのぷるっぷるの唇ですよ?
まだ歯も生えてないんですよ?
こちらを傷つけるようなものを何一つ搭載していないはずの赤子がですね、牙を剝いて来たんですよ。
吸引力ですわ。
あのね、マジで侮れないんですよ、赤子の吸引力。
なぜって、彼らも生きるのに必死ですからね。これで私の方が乳牛並みにジャージャー出るタイプだったら、彼もそこまで本気を出さずとも腹いっぱい飲めたんでしょうけども、ところがどっこい、たぶんレベル10くらいなんですよ。恐らくその時なら採取クエストでもまぁ㎖のメモリくらいには到達したんじゃないかな、って思うんですけど(それでもその程度)、ミルクなら普通に200㎖くらい飲むわけですから、いくら私が手数で勝負のタイプでも満足出来ないわけです。
けれど、そんな母の乳事情なんて知らない息子はですね、
「ぼくががんばれば、もっと出るのではなかろうか」
くらいのことを多分考えてずぉぉぉぉぉぉぉぉって吸ってたんですよ。
その結果がこれですわ。
乳、損傷ね。
だけど、飲ませないわけにはいかない。
血が出たらアウトらしいんですけど、出てないんですもん。
まぁ、血が出たとしてもですよ、そもそも母乳ってもともと血液らしいんで、多少飲んじゃっても問題はなさそうですが。
それじゃあどうするか、って話になるわけです。
薬を塗りたくても、赤ちゃんのお口に入るわけですから、傷薬なんて当然塗れません。馬油とかなら大丈夫みたいなんですけど。それかもしくは、母乳を塗る、という方法もあるらしく。いや、その母乳があんまり出ねぇっつーことでこのザマなんだが?!
とにもかくにもですよ。
そう大して悪化はしなかったので、毎回歯を食いしばり、時にはラマーズ法で痛みを逃がしながらの授乳となりました。もうマジでラマーズ法はかなりお世話になりましたね。惜しむらくは、出産で使えなかったことでしょうか。ラマーズ法については日常生活でも痛みを逃がす方法として結構使ってますね。いまならほら、鬼滅のアレのね、呼吸法的なアレみたいな感じでね、出産の呼吸壱ノ型『ラマーズ法』なんつってね、絶対誰かが書いてると思うんですが、まぁ良いです。
毎回毎回ね、般若みたいな顔で授乳する度に思うんですよ、「誰だ、最初に聖母みたいな顔で授乳してる絵を描いたやつは。そのお陰で授乳って何か神秘的な感じで全然痛くないみたいなイメージが植え付けられちゃったじゃないか!」ってね、そんな怒りを爆発させてましたね。そんな母の姿は息子の記憶にないみたいで安心しました。
その数年後、娘も生まれるわけですが、こちらは産後、すぐに働き始めたこともあり、最初からミルクを積極的に与えていた(家にいる時のみ母乳)こともあって、そこまでの痛みはなかったんですけども、逆に、『飲まれな過ぎて、製造された母乳が行き場をなくし、乳がパンパンに腫れる』という事態を引き起こすことになりました。あのね、触るとカッチカチなの。中に明らかに何か入ってます、って。イメージはね、リカちゃん人形の乳。マジであれくらいカッチカチ。
かといって、やっぱりジャージャー出るわけでもなく。
ただ、第一子の時よりは出るようになりましたので、お風呂で温まるとぴゃーってシャワーのように噴出し、予期せぬ母乳風呂が出来上がったりもしました。いまとなっては良い思い出です。
さて、そんなこんなでお送りしました母乳エッセイ。如何でしたでしょうか。
もちろん、こんなに大変じゃなかったんですけど、という方もいるでしょうし、同士よ! と握手を求めて来る方もいるでしょう。
そりゃまぁいまとなっては全部良い思い出なんですが、『これまでの人生で痛かったことランキング』を挙げてみろと言われたら、
1位 娘出産後の後陣痛
2位 授乳時の乳
3位 脊髄注射
かな、って答えると思います。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
エッセイなら任せろ!② 〜母乳育児舐めてました〜 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa
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