第3話

   

「……というわけで、私は毎晩、温泉旅行しているのさ」

 ほろ酔い気分の私は、つい自慢げに、そう語ってしまった。

 相手は同僚の田中で、場所は私の部屋だ。男同士の飲み会だから、あまり部屋は片付けていないけれど、大切な鉄道模型だけは押し入れに仕舞ってある。

「じゃあ、今日も俺が帰った後、ブルートレインで遊んで風呂に入るのか?」

「そういう言い方はやめてくれ。なんだか子供みたいで恥ずかしくなる」

 今さら照れる私だが、田中は意外な言葉を口にした。

「いや『子供みたい』とは思わないぜ。お前も言っただろ、鉄道模型は高価だ、って。だから本来、子供ではなく大人の趣味だ。ただ、俺が気になるのは……」

「何だ?」

「ああ、うん。これを見せた方が早そうだな」

 田中はスマホで、ブルートレイン「銀河」について書かれているページを私に示す。


 パッと目に入ったのは、右上に掲載されている写真だった。

 青い列車の先頭は、当然のように電気機関車だ。正面のナンバープレートには「EF65 1116」という数字があった。

 まさに私が持っているブルートレインと同じ、EF65の1000番台だ!

 喜ぶ私の様子は無視して、田中は画面をスクロールする。長々と書かれている文章は流して、「廃止時の編成」という図表のところで止めた。

 それこそが、私に見せたいものらしい。

 車両編成として「カニ24形、オロネ24形、オハネ25形、オハネ25形、オハネ25形、オハネ25形、オハネフ25形、オハネ25形、オハネフ25形」と記されている。

 端っこに来るはずの「オハネフ25形」が中間にもあるのは「7・8号車が増結される場合があった」という但し書きの通りで、最後の2つはあったりなかったりだったのだろう。

 私の6両セットとは微妙に違うけれど、基本的には同じ24系25形だ。田中が教えてくれた情報は、むしろ私を嬉しくするものだった。

「やっぱり私のブルートレインじゃないか!」

「そこじゃない。編成表をよく見ろ。上の方だ」

 表の最上段は「列車番号」となっている。最初の「カニ24形」のところは空欄で、残り8両に数字が割り振られていた。

「ああ、私も知っているぞ。確か『カニ24』は、他の客車のための電源車で、だから客は乗せないのだろう? 『カニ』の『ニ』がその意味で……」

「正確には『ニ』は荷物車だ。電源車に荷物スペースも設置してるから『ニ』が割り振られている。というのは、どうでもよくて……」

 今まで知らなかったが、どうやら田中は、かなりの鉄道ファンらしい。

「……お前の言う通り、『カニ24』は電源車だ。でもポイントはそこじゃない。『列車番号』のさらに上だ」

 田中は、指でトントンと示してみせた。表の左上に「←大阪」、右上に「東京→」と記されている。

「ブルートレイン『銀河』は、東京と大阪を結ぶ寝台列車だったんだが……。お前が入る温泉は、大阪にあるのか? 大阪って、温泉地のイメージじゃないんだが」


 田中が帰った後で、私が愛用している温泉の素を確認してみると……。

 それは、群馬県の草津温泉を模したものだった。




(『ブルートレイン「銀河」に乗って温泉へ行こう!』完)

   

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ブルートレイン「銀河」に乗って温泉へ行こう! 烏川 ハル @haru_karasugawa

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