96.料理人のノート



「そのノートは······?」



リズがアンナに近寄り、ノートを受け取る。



「この厨房に置いてあったものです。

スティーブ様が仰るには、以前この厨房を任せられていたクリスティーナ様の専属料理が持っていたものらしいです」



リズはパラパラとノートをめくり中身を確認した後、大きく息を吐いた。



「リズ?」


「これは、あなた・・・に必要な物かもしれません」


「······え??」




ピザ


材料


【生地】


・強力粉

・薄力粉

・ドライイースト

・砂糖

・塩

・水

・強力粉*打ち粉用。


【トッピングの材料】


・トマトソース

・玉ねぎ

・ピーマン

・サラミ

・チーズ

・オリーブ油




私に渡されたノートを見てみると、そこに書いてあるレシピは確かに私が知っている、ピザだった。

ペパロニピザだ······。


さらにページをめくる。

ホットドッグにハンバーガー。


次々にページをめくる。

サーロインステーキ、ミートローフ。


流行る気持ちでページをめくる。

フライドチキンにフライドポテト、ベイクドポテト、オニオンリング。

マカロニ&チーズに、エッグベネディクト······。


これは、明らかにこの世界の料理じゃない。

あの世界の······私が居た世界の料理だ。


このノートを書いた人は、もしかして私と同じ······??



「······さん。ティアナさん!!」



呼ばれていた声に気付き、ハッとする。

顔をあげると、リズをはじめとした皆が心配そうな顔で私を見ていた。



「······ごめん。なに?」


「大丈夫ですか? 険しい顔でノートを見ていらしたので······」


「うん。ピザ以外にも、フライドポテトとか色々気になるものが載ってたからビックリしちゃった」



そんな私の言葉に1番に反応したのは、エレーネさんだった。



「フライドポテトって······、ティアナ様が作ってオブシディアン様が気に入ってたくさん食べていた、ジャガイモを揚げたものですよね?

少し頂きましたが、とっても美味しかったです!!」



拳を握りしめ、キラキラした目で力説する様子に思わず笑ってしまった。

私はノートの中から、ピザに合いそうなメニューを考える。



「じゃあまた今日もフライドポテトを作ろうか。今日はピザと一緒にフライドポテトと······オニオンリングとポップコーンシュリンプを作りましょう。

サラダはシーザーサラダ。スープはオニオングラタンスープはどうかしら?」


「ポップコーン??

よく分からないけど、エビはまた食べたいです!」



「じゃ、メニューは決まりね」と言いながら、料理の説明をしていると、視界の端にそわそわと落ち着かないミーナの姿が入った。



「どうしたの?」


「ティアナ様は、そのノートに載っている料理を知ってたり、作った事まであるのかい?」



リズに目線を移すが、特に止める様子もないので素直に答える。



「知ってるわよ。作った事がある料理もあるわ」



私の返答を聞き、ミーナとアンナは口をあけて顔を見合せた。

ミーナは私に視線を戻すと、とてもいい笑顔で詰め寄ってきた。



「ティアナ様!

お願いだよ。料理を見せて欲しいんだ!!」



そう言って、勢いよく頭を下げた。

急に懇願され戸惑っていると、アンナまでミーナの後ろで頭を下げた。



「ティアナ様······、出来れば母が言ったように料理を見せては頂けないでしょうか?

完成品をひと目見るだけでいいんです···っ!

よろしくお願いします!」


「別に、構わないけど」


「え?」



私が軽く許可を出すとアンナは、首をかしげ不思議そうな顔をする。

つい私も同じように首をかしげて聞く。



「出来上がった料理を見るだけでいいの?

料理を作るところをみたり、食べたりしなくていいの??」


「ええっ! 作るところまで見せてくれるのかい!?」


「今から作るつもりだし、良かったら一緒に食べましょ」



固まるアンナをよそに私が承諾すると、ミーナはオーブンに魔力を込めた時のような笑顔で喜んだ。

フリーズしていたアンナはハッとすると、言った。



「ティアナ様······っ!

有難い提案ですが、申し訳ございません。私共には、貴族の料理を頂ける程の······お金が······ありません」



気まずそうに、言った言葉。

悲しそうに、お金が無い。というアンナの言葉にミーナも項垂れた。



お金? なんで、お金のはなし??


ますます首をかしげる私に、リズが耳打ちした。



「ティアナさんがマリーさんに料理を教える時に言ってたような事じゃないですか?

作り方やレシピを教えるのは、普通は有料らしいので」



ああ。なるほどね。

私はしょんぼりとしている2人に笑いかけた。



「お金の心配なんてしなくて大丈夫だよ。

元々、食事は作るつもりだったから、二人の分が増えたところで負担になる訳じゃないし」


「いいのかい!? ありがとう、ティアナ様!!

いやぁアンナが“ お貴族様は気難しいのが多いから気をつけて ”って言うから不安だったけど、ティアナ様が優しい人で良かったよっ」


「お、お母さんっ!!」



······うん。それ、お貴族様本人の前では言っちゃダメな話だよね?

さっきからミーナの発言のたびに、顔色を無くすアンナに同情した。



「ミーナさん」



エレーネさんがミーナに声をかけ言う。



「アンナさんが忠告したことは、本当の事なんです。

ティアナ様とエリザベス様は、お貴族様の中では異例な存在で平民である私にも、とても優しくして下さってます。

でも······、私も他のお貴族様は怖いです。

私達平民が真実を言っても、お貴族様が黒と言えば黒となる。理不尽な方も本当に多くいるので、おふたり以外のお貴族様への対応は気をつけてください」


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スキルをよみ解く転生者 よつ葉あき @aki-2

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