95.魔力の補充



オーブンの前に立ち、魔石を見つめる。

ほんのりピンク色に色付いた魔石。

元は白かった物に、スティーブさんが魔力を込めた為に色がついたらしい。


最終的には、これを赤くしなければならないようだ。



「ティアナさん。

くれぐれも無茶は、なさらないで下さいね。

ゆっくりと魔力を魔石に込めて、自分の中の魔力を半分以上使わないようにして下さい」


「⋯⋯わかったわ」



と、リズに返したものの、自分の中の魔力の半分。

という感覚が魔力操作に慣れていない私に解るものなのかが、正直不安だ。


記憶の中のジルティアーナがやってた事を思い出し、見様見真似でピンク色の魔石に触れた。


するとゾワリとした感覚を手から感じた。

何かが吸い出されれる不思議な感覚。手から腕、腕から全身へと、その感覚が広がったかと思った時ーー······


ピンク色の魔石が強い光を放った為に私は驚き、反射的に手を退かした。


そこには、赤く光る魔石。


······え。完了??

あっさり光り、呆気に取られる。


いやいや、まさかね?

たくさん、魔力入れなきゃいけないらしいし、こんなに、あっさり終わるわけが······



「すごいじゃないか!! さすがはお貴族様だね」



そう言ってミーナはオーブンを確認し始めた。

私はミーナの背中を、本当にこんなに簡単に使えるようになったのか心配になりながら見つめていると、振り返ったミーナにガシッと両手で手を掴まれ激しく振られた。


思わず「うわっ」っと声を出す。

そんな私たちの様子を見て、「お母さん! 何してるのーー!!」とアンナが注意するが、ミーナは振るのを止めただけで私の手をギュッと握り続けた。



「長年使ってなかったらしいから、少し心配だったけど問題なく使えるみたいだよ。

ティアナ様、ありがとう! コレで作ってみたかったオーブンを使った料理が出来るよ!」



良かった。

あまりにも早く満タンになったから、何かおかしいのかと思ったが、ちゃんと問題なく使えるようだ。



「ティアナ様、お身体は大丈夫ですか!?」


「うん。吃驚しただけで、痛かったりする訳じゃないから大丈夫だよ」



焦るように聞いてきたのはエレーネさん。

私はミーナに手を掴まれて声を上げた事に対して聞かれたのだと思い答えた。



「いえ、手を掴まれた事じゃなくて魔石を一気に染めた事です。

あんなに急激に大量の魔力を込めたら、普通は魔力枯渇を起こしたり、魔力酔いを起こしてしまうかと思うのですが、なんともございませんか?」


「うん、なんともないけど?」


「······凄いですね。

私と母はもちろん、スティーブ様だってなかなか染められなかったのに、一瞬で染めるなんて······」



なんですと。

今の私······、ティアナは下級貴族。という設定なのに、中級貴族のスティーブが苦労した物を、私が直ぐに染めてしまった事が不自然だったようだ。


どうしたもんかな?と思っているとリズがアンナに言った。



「それは、恐らくスティーブは水属性だからですよ。

冷蔵庫には水属性の魔法陣が使われてますが、オーブンは火属性です。

スティーブにとってオーブンの魔術具に魔力を込めるのは相性が悪かったんだと思いますよ」



へぇ、そうなんだ。

なんだ。私の魔力量が凄い訳でなく、相性の問題だったのね!

どこか安心しながら、ひとり納得した。


そして、嬉しそうにオーブンを眺めてるミーナに聞いてみる。



「ところで、オーブンが使えるなら作ってみたい料理ってなんなの??」


「ピザだよ」


「え! ピザ!?

ピザって······薄く伸ばした生地に、トマトソースや肉やシーフードや野菜などの具を沢山のせるピザのことよね?」



思わぬ名前が出てびっくりした。

私は、ピザがこの世界にあるの!? と驚いたが、あまり知られていないのか、リズとエレーネさんは「何それ?」と言うように、首を傾げていた。


私の発言に、アンナが驚きの表情を見せた。



「さすがですね。 ティアナ様はピザをご存知なんですか?」


「······うん」


「母も私も、ピザを知らなかったんです。

でも、コレにピザという料理の作り方が書いてあって、母が作りたがっているんです」



そう言って取り出したのは、古びたノートだった。



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