8-ocho:真相
ちりんちりん、と慎ましく鈴が鳴る。
いらっしゃい、と髭を立派に蓄えた店主がやって来た二人の女性客を歓迎した。
彼女らが席に着き、それぞれ注文をした。
「ねぇ、聞いた? この前の事件」
「あ、知ってる。ウチを仕切ってたマフィアと、隣町のマフィアの抗争でしょ?」
「そうそう。あれ、なんかお互い全滅しちゃったんだって」
「あー、道理で。最近街がガラの悪い連中で溢れてると思ったら」
「ね。今まで睨みを利かせていた人たちがいなくなって、ワルたちがまた肩幅広げてんのよ。なんかナンバーワンのキャバクラの店主もワルの喧嘩に巻き込まれてか死んじゃってたみたいだしぃ」
「やぁねぇ」
そんな軽口を聞いている人物は、目の前にいる店主だけ。
「……大丈夫さ。今に、すごい強さのメイドさんがやってくるから」
ぼそりと呟いた言葉は、酒を飲む二人の女性の耳に届いていた。
「……メイドさん?」
「ああ。マフィアに主を殺されて、その形見の刀で悪党を成敗する正義のメイドさ。彼女に近づいた悪党はみんな殺される。目が見えていないのに、大した執念だよ」
「えー、こわぁ。なんでそんなこと知ってるの?」
「ん? だって僕が彼女を匿い、デマを情報屋に流したんだから」
どうゆうこと? という言葉をマスターは笑って流した。
「この街では情報を正しく握った者が生き残る……そういうことさ。君たちも、証拠のない噂に流されないようにね」
はーい、と二人の女性は気だるげに返事をし、意味不明なことを言うマスターから目を背けてまた談笑を始める。
そんな最中だった。
ちりんちりん、という優しい鈴の音が鳴った。
「おや、噂をすればだ。いらっしゃい。足元に段差があるから気を付けて。僕の言った通り、泳がせて一網打尽にした方が効率良かっただろう?」
「ええ……感謝しております。おかげで一度に多くの屑を排除できました……」
「「え?」」
二人の女性が、談笑を止めてマスターの方を見る。
次に、彼が微笑みかける方向に首を向け、
「ひっ──」
「うわ……っ」
漆黒のヴェールを深く被り、目を黒い帯で覆ったメイドが二人の女性の視界いっぱいに映っていた。腰には黒鞘の刀を差さっている。
唐突な出現に女性たちは絶句した。
いや、違う。
眼前のメイドが醸し出す、尋常ならざる覇気に腰を抜かしたのだ。
「今……悪党の話をしていましたか……?」
ゆっくりと、されどどこか悍ましい圧力を感じる声色。
いや、これは怒りか。悪党という言葉に敏感に反応し、まだ見ぬ存在に向けて敵意を放っているのだ。
雰囲気に吞まれて何も言えなくなる二人の女性に向け、メイドが重ねて言葉を放った。
「詳しく教えてくださいまし……この世からすべての屑を消し去るために」
ぐちゃり、と。
メイドは頬を裂いて、凄惨な笑みを浮かべた。
【短編】キル y キル 猫侍 @locknovelbang
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