「瑞希……」

「僕の味方にこちらでいうところの人間の世界っていうのかな? に味方がいるんだ。陰陽師って知ってる?」

「陰陽師? 聞いたことがある。彼らは鬼を倒せる力があると」

「うん、その人は僕の叔父さんなんだ。最初その人の力添えで、式神の二人が一緒にこの世界に来てくれた」

「式神……?」

「うん、ツヨキとヒカリと言ってね! あ、僕のツノに化けてたんだ」

 瑞希はそう言うと頭に手で角の形を作って乗せて見せた。

「あ、あのツノに化けていた小さな小人達か! そうか……!」

 京牙は瑞希からひとしきり今までの話を聞くと合点が行ったように頷いた。

「僕とツヨキ、ヒカリだけでは不安だったけど、京牙がついてくれるなら勇気が出て来たよ」

「ほんとか?」

 京牙の大きな手が瑞希の手を包み込むようにぎゅっと握り、思わず瑞希はドキリとした。

「あ、わりぃっ」

 京牙は慌てた様子で手を放した。

 なんとなくまたお互い気まずい雰囲気になる。

「と、とにかくよ、頼む……手を貸してくれ」

「うん」

「あ、あと、ごめんな」

「何が?」

「お前を子供扱いしちまって」

 そう言いながら京牙は頭を掻いた。

 京牙は今は自分が鬼封じの巫子であることを認めてくれて、信頼してくれている。

「いいんだ、僕、案外甚平似合うからさ、このままでいいよ、うん」

 まさか自分が捧げられるはずの鬼に頼られるとは世の中何があるかわからないものだ。

「そうか? 大人用の着物に着替えてもいいんだぞ」

「いい、この方が動きやすいから」

 そう言って手を広げてみせた。

 それに京牙の着ていた甚平だしと口にしそうになったが、それはなんとなく止めた。

「いよいよか……」

 ふと京牙は視線を他に向けていた。

 京牙の横顔は何かを決意していてどこか胸がざわつく。

 自分たちがもし仮に助かって人間の世界へ戻れたとしても、その後彼はどうなるのだろう……。

 ふとそんなことが頭を掠めた時、京牙が部屋の奥から地図のようなものを持ってきて目の前のテーブルに広げた。

 その地図は京牙が自分で作ったのだろう手書きで作られていた。

「俺が時々鬼王の間に向かう時に記憶して書いてきたものだ。広さは坪三百くらいはある」

 地図を改めてみると見ると明らかに中心になっているところだけまだ完成していないようだ。

「俺は何気なく色々な場所を散策したが、母親がいるらしき部屋はなかった。ここ以外もう探すところがない」

 そう言うとまだ未完成な真ん中の所を指さした。

「なんでここだけ場所の明記がないの?」

 疑問に思った瑞希が尋ねると、京牙はその一点を見つめ嘆息した。

「ここはたぶん異界の間だ」

「異界の間?」

「たぶんここに俺の母親がいる。それまではこの中心の周りすら行くことが叶わなかったけれど、何故かここしばらく少しづつ地図が書き足せるほど奥に進むことができていた。不思議だと思っていたのだが、恐らく、瑞希が来たことでその異界の扉に何か変化があったと考えてもいいかもしれない。そこに母親は閉じ込められているはずだ」

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焔の鬼アルファに人身御供として捧げられる巫子オメガ かにゃん まみ @kanyan_mami

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