「鬼王を恨んでいるの?」

「あぁ、いや、俺は……鬼王だけじゃない、自分の存在も憎んでいる」

「そんな……」

「俺自身の事はいい。少し足早に説明してしまったが、鬼王を油断させるためにしばらく俺のつがいになった振りをしてくれ。頼む」

「つがいって?」

 瑞希の問いかけに少し間を開けて何か想いを巡らしながら京牙が振り返る。

「……え、あ……。うんとだな。絵巻によると、両想いという感じっぽかったかな?」

「そうなんだ……ラブラブなんだ」

「……ん? ラブラブってなんだ?」

「ラブラブって、だからお互いに慕いあってる事をラブラブって言うんだよ、SNSで見た!」

「えすえぬえす?」

 なんだか今の緊迫した雰囲気に合わない会話にお互いに視線が合う。

思わず軽く笑ってしまった。

「……わかった。とにかく、今の京牙が本当の京牙なんだよね?」

「あぁ、そうだ」

 その言葉を聞いて瑞希は手を胸に当てほっと胸をなでおろした。

「どうした?」

「ううん、俺、本当に不安だったんだ。昨日のあんな優しくて親切な京牙が変貌して驚いちゃってたから。怖かった……。ううん、というよりなんだろ。少し悲しかった」

 瑞希の言葉を聞いて京牙ははっとして少し眉根にしわを寄せ俯く。

「あぁ、そうか……すまなかった。俺も余裕がなかった」

「ううん、事情がわかったからもう大丈夫!」

 京牙は頭を下げ再びこちらを見た。

「こうして奴を欺くことで奴を封印したい。そして俺の母親を助けたい。もちろん、お詫びにお前も元の世界に戻してやるからな」

「……」

 瑞希は京牙が自分が知り合った瞬間の京牙であることに心の底からほっとした。

 けれど、京牙が提案してきたことにどこか引っかかりも感じる。

 それが決意を込めた言葉のどこかに寂しさを含んでいるからだろうか。

(それにしてもラブラブと京牙に伝えたものの、どうするのがラブラブなのかな?)

 人づてに聞いたことはあるけれど、自分の身にふりかかるとなるとどうしたらいいのかわからない。

 京牙のお母さんと人間界に残した想い人みたいにラブラブなのかな?

それとも生物的な感じでラブラブなのかな?

「あ、でも京牙のお母さんは鬼王とつがいなんじゃないの?」

「違う。彼らはつがいではない」

「……そうなんだ……」

「母は人間界に本当ならつがいになるべき相手がいたはずだ。その人を残している、その、こっちの世界とは違い、人間界のつがいだ」

「……どういう意味?」

「こちらでいうつがいは性的な結びつきの意味あいが強い……。でも、人間界のつがいは心が結ばれることが正しいつがいだと俺は聞いたことがある。俺達鬼には永遠に手に入れる事のできない、強い絆で結ばれたつがいだ」

「……」

強い絆……。心の結びつき。その言葉に瑞希は胸がふんわりした。

「人間はいいな……情緒的で人想いで優しい……俺も人間になりたかった」

「そんな、京牙は鬼なのにすっごく優しいじゃないか!」

 瑞希は本当に心からそう思っている。瑞希の訴えに京牙は目を丸くした。

「……ありがとう」

 思わず熱い眼差しで京牙に見られて瑞希は慌てる。

「い、いや、僕はほんとにっそう思っただけだから」

 気まずさを誤魔化すために瑞希は話を進めた。

「ぼ、僕、最初あの絵巻を見て、自分が鬼の餌食になるのかと知って怖くなって逃げたんだ。でもその後で村の人に捕まって、そこからも逃げたらこの世界に落ちてた……たぶん何が起きても僕はこの世界にくる定めだったんだと今は思う」

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