不思議な交信

 宇宙からの交信があった。

 天体の好きな金持ちが、道楽として庭に建てた巨大アンテナが、正体不明の規則的な信号を捉えたのだ。宇宙からの交信は、すぐに公に発表され、国が専門チームを組織し、金持ちが建てたモノより何倍も大きいアンテナを建設し、不思議な信号を捉えられる方に頭を向けた。

 肝心のその内容は、わけがわからぬ。それも当然で、異国の言葉でさえさっぱりだというのに、どうして異生物の言葉がわかろうか。わかっていることといえば、遥かかなたから来ているということだけ。それも、その距離が膨大すぎて、遥かかなたとしか言えない有様だった。

 翻訳作業のために集められた専門家たちは、まじめに作業しているようでいて、皆、はなから解くつもりなど毛頭なかった。A氏もまた、そんなやる気のない面々の一人だった。彼は、椅子に座っていれば食べていける今の仕事に満足していた。そんな彼は、日中ずっとパソコンに向かい、考えているフリだけしていればよかった。

 パソコンに移される一定の信号。それをなんとなしに見つめていたA氏の頭に、ある日突然、衝撃が走った。それは、確信ともいえる直観だった。その直感には、音に似た何かがあった。A氏はすぐに、その直感を基にメモを取り、謎の宇宙からの交信にあてた。すると、たちまち交信の内容が明らかになり、その全貌が明らかになった。A氏は、その文言を口の中で読み上げた。

「このメッセージを受信、変換できる優秀な受信機をお持ちの方々、私たちはまさに、あなた方の受信機を求めています。もし、返事をいただけましたら、すぐにあなた方の受信機を買いに伺いたいと思います。ぜひ、前向きにご検討を、お願いいたします……」

 A氏は、研究施設の大きな窓の外に構える、ドーム程もある巨大アンテナを一瞥した。そのとき、A氏は数人の同僚の視線に気づいた。それら交わされる視線から、A氏が宇宙の交信を直観的に読み取ったのと同じように、同僚もA氏がその内容を解読したことを悟り、またA氏も同僚たちがとっくに交信を解読していたことを悟った。そしてすぐに、宇宙のどこかにいる奴らが求めているのは、施設の庭に構える、無駄に大きいだけの無機質なアンテナなんかではなく、神秘に満ちた、我々の脳みそなのではないかと思った。

 その考えに至ると、A氏は解読したメッセージが書かれた紙を破り捨て、ただ目を閉じた。

 

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天国の証明 峻一 @zawazawa

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