温かな真実
夜空の星を見上げ、目についたひとつの星に、生き物が住んでいるのではないか、そう考えたことはないだろうか。目に見えるだけでも数えきれない星が輝いているのだから、ひとつくらい、生き物が住んでいるだろうと。その推論は正しい。実は、目に見える星全て、いや、存在する星々すべてに、生き物はいたのだ。地球外生命体の存在が確認できなかった唯一の理由は、その珍しさではなく、人類の観測機器の性能が不十分なためだったようだ。
ある平凡な日に、彼は現れた。突如着陸した円盤から出てきたのはタコの姿をした何か。その姿は、その存在すべてが、絵に描いたような宇宙人だった。タコ型宇宙人とは、彼が持ってきた万能翻訳機で自由に意思疎通を取ることができた。彼は翻訳機の機械的な音声を通じて、宇宙の大いなる真理、つまり、星あるところに生命ありということを教えてくれた。
それを聞いた生物学者の男が言った。
「ありえない。全ての星に生き物がいるなんて。生命体が生まれることは、信じられないほどの奇跡が重なる必要があるのだから」
タコ型宇宙人は答えた。
「あなたを納得させるには、私の円盤に積んでいる高性能望遠鏡を貸してあげれば良いでしょう。しかし、生き物が宇宙を満たしているというのは、自明なことなんですよ」
「なぜです」
「それは、全てのものは繋がっており、あらゆる存在物は、他のあらゆる存在物の原因であるためです。私たちは厳密な意味で繋がっているのですよ」
生物学者は、タコ型宇宙人の言葉に心が震えた。いや、その機械的な声がもつ、深く温かな響きに。それは、科学の最高到達点であると同時に、最も深い宇宙の真理を内包しているように思われた。生物学者は言った。
「あなたの言うことが本当なら、宇宙はなんと温かい場所なんだろう」
タコ型宇宙人は笑みを浮かべ、男に触手を差し出して握手を求めた。男は柔らかな握手に応えるべく、ゆっくりと手を伸ばした。
その瞬間、タコ型宇宙人は一瞬で散った。人類の文明の利器、高密度レーザー銃の的となったのだ。
生物学者は呟いた。
「宇宙は温かくとも、地球は何と冷たい場所なんだろう。地球に宇宙人がやってこない理由が、なんとなくわかった気がするぞ」
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