遡 今日子さんの日記帳?の選択
バレンタインデーから暫くした日。
「でも結局、あれ以降も記憶戻りませんね僕」
「もしこのまま戻らなくても。私、お兄ちゃんを悲しませたりは絶対しないから」
なんて
漫画やゲームの様にはいかないのだろう。
何となくだけどわかる。
あの日を境に完全に今日子さんの立場が上になっている――のだと思う。
というより僕が弱くなったのだろうか。
嫌われたくない。
違うかな。棄てられたくない?
とにかく今まで感じた事のない感覚だ。
でももし、今日子さんとこのままという事になるならちゃんと……。
あれ……?
僕って卒業後どうするんだっけ。
うーん。
「あの今日子さん」
「はいはい私だけのお兄ちゃん」
「えーと、変な話します」
「うんうん」
「前の僕って進路決めてました? 思い出せないというのか、決めてなかったでしたっけ――って今日子さんに聞くことでも無いかもですが……」
「……何言ってるのお。お兄ちゃんは何とかなるって決めてなかったんだよ。変なお兄ちゃん」
「そ、うなんですね――」
そういうものなのだろうか。
なんかすっぽり消えてる気がするけど。
そんな事を考えていると、今日子さんがニヤニヤしながら、
「もしかして私をどうやって養うとか考えてた? あはは」
と、笑いながら両手をグイッとお腹に回し抱きしめてきた。
「まぁ、そうなのかもしれません」
「ええっ! あのお兄ちゃんがっ。前に私を道端に放り投げたあのお兄ちゃんがっ! お兄ちゃん大好きすぎるよっ♡ 胸がドキドキで死んじゃいそうだよう」
そんな表情豊かで忙しい今日子さんに僕は、
「そんな事で今日子さんは死にません」
「むぅ。でも気にしないで? お金ならどうにでもなるし――私のことはおいといて、お兄ちゃんの好きなことしていいんだよ?」
「どうにでも?」
「それはお兄ちゃんの気にすることじゃないの。やりたい事、今からでも見つけたらいいよ。私応援するから」
どうにも言いくるめられているような気もするが。
珍しくも昼休みに今日子さんとお弁当を食べていた僕は放課後に先生に相談してみようか。
と考えていた。
※
「先生――
「はいー、たまきくんーこっちですーっ」
「急にすみません、ちょっと相談が」
「あら珍しいこともあるんですねっ」
「ええと、まぁ。その進路の事で」
「進路ですかっ? 前に提出してきもらったのがこの辺に……あれっ、無い」
「先生?」
「ええっ? たまきくんの進路調査書が無いんですっ。どこにいったんだろ……」
先生は自分の机の中全てをガサゴソひっくり返す勢いで探している。
「あのー、その書類って僕――記入してたんですよね?」
「はい、そうだっはずですよ?」
「えーと――なんて書いてたか覚えてますか?」
「はいっ?」
「いえ、ですから僕の進路に何が書かれてたのか――」
「お、覚えてないんですかっ?」
「……はい」
「えぇ?! 頭でもうったんですかっ?」
先生は漫画にでてきそうな両手を上げたポーズで、元から大きな口を更に大きく広げて驚いている。
その大袈裟で大きな声のせいで周りの先生達から注目を浴びてしまった。
まぁ、そう……なりますよね。
「先生――」
僕は周りを見渡し小声で、
(――色々なことを忘れてしまってるかもしれないんです……)
「たまきくん……、ちょっと来なさいっ」
僕は先生が受け持っているらしい化学準備室に連れてこられ、
「それで――どういう事なんですか? 話してくれますか?」
「どう話していいのか」
「うーん。順序よく話すことは出来ますか?」
そうですよね……。
確かにそこからじゃないと僕みたいな凡人では順序付けての説明しかないんだよなぁ。
「少し長くなりますが良いですか……?」
先生は「勿論です」と促してくれた。
僕は――そう。
あのびちょ濡れの今日子さんと玄関であった話から始めた。
多少誤魔化した事も含まれるのはやむを得ないだろう。
「……たまきくん」
「はい……」
「今日子さん。そのたまきくんの妹さんって……、誰ですか? うちの学校にはいないですよね?」
え?
「ちょっと何言ってるんですか、ふざけてます?」
「ふざけてません。はぁ。たまきくん親御さんを呼びますね?」
「まったまったまったー! それはダメですって」
「たまきくん、これは私でどうにかなる話じゃ――」
「……」
「……」
(今日子さんを知らないって……言わなければ良かった。そもそも信じれる話じゃ――)
「たまきくん?」
「言わなきゃ良かった……」
「え?」
「言わなきゃ良かったって言ったんだっ! だから他人はいやなんだ、話せって言っときながら信じようともしないっ。どーせ頭がおかしいとでも思ったんでしょ? そうですね――どうせ頭がおかしいんですよっ!」
僕は珍しくも叫んでしまい息絶え絶えだ。
その様子を見て仕方くなのか先生は、
「ご、ごめんなさい、たまきくん。その……決して頭がおかしいとか思っている訳では無いの」
「もういいです」
「待ってっ、少しだけ確認させてっ」
「それより今日子さんのところに行かないと――」
「落ち着いて、たまきくんっ」
落ち着く?
落ち着いていられるわけが無い。
先生は今日子さんを知らないんだ。
僕の左右の手首を握りながら先生は続け、
「その――、たまきくんが経験してきた本? の事象が本当なら割と私でも理解出来るかもしれない」
「なんで今になって――」
「いえ、ごめんなさい。それだけ必死な顔をしているのに疑った私が悪かったの。本当にごめんなさい」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
こちらもよろしくです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927860057563472/episodes/16816927860057575357
妹の遡 今日子さんからの愛が重たいっっ! 祭囃子 @matsuribayashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。妹の遡 今日子さんからの愛が重たいっっ!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます