遡 今日子さんとサボってデート
「――起きてお兄ちゃん」
「あ、う……」
「起きた? 隙あり〜の〜ちゅ〜♡」
どうやら僕は寝ていたらしく――今日子さんに起こされたようだ。
ちゅ〜って声に出してするものなのだろうか?
「いいじゃーん。それよりごめんね、もう平気だよ」
「それは……、良かったです」
頭がボーッとする。
「ねぇねぇお兄ちゃん、二日連続でサボったわるーい私達だけどさお出掛けしない? 学校帰りに行こうと思ってたんだけど――こうなったらこのまま一緒に、ね?」
つまりは、病欠にしているけど遊びに行こーぜー。
「うぇぇぇっい」ってことかな?
「そうそう、ウェェェェィィ!」
「元気そうで何よりです」
「ほらほら着替えてっ、バンザイして?」
今日子さんは「ばんざーいっ」と言いながら僕の部屋着を脱がせていく。
なんだか照れくさい。
自分で着替えると言っても「だーめ」と無理矢理着替えさせられていく僕。
僕って今日子さんの兄なんじゃなかったっけ。
と、身体を触られているとやはりと言うべきか……。
「もぅお兄ちゃん……。帰ったらいっぱいしよ?」
「むむむ……。なんか悔しいです」
「あ、あと朝みたいに急に愛情表すの禁止だからねっ。もうずーーーっとこうなる事を願ってたから、結構心臓に悪いの」
なんか映画か漫画で見たのかわからないけれど、僕ってダメ人間の典型的な男なんじゃ。
「お兄ちゃんはな〜んにも気にしなくていいんだよ?」
「それがダメ人間の始まりな気が――んっ……」
今日子さんの口で僕の言いたいことをを封じられてしまった。
僕からはダメでも今日子さんからは問題ないらしい等とぶつくさ言っていると彼女は、
「むぅ。お兄ちゃんネガティブ発言も禁止だよ。よし終わりっ――じゃあ行こっ」
腕を組まれたまま家を飛び出した僕達。
どうやら今日子さんは駅ビルのカフェに行きたいようであった。
ほんと、そういう場所は落ち着かないのだが。
※
男の、まして友達など皆無な高校生にはその場所は、やはりある種の地獄だった。
見渡す限り若いカップル。
独りでもリア充にしか見えない男性女性。
母さんと同じ歳くらいの人もどことなく優雅にも見える。
「あぁお母さんに言い付けるからね。ふふ」
「えーと、それは困ります。で、今日子さん」
「はいはい大好きなお兄ちゃん」
「……注文お任せしても?」
「うーん、わかった任せて」
瞳をキラキラさせ、身体を左右に揺らし「ふーんふーん」と鼻歌まじりの今日子さん。
彼女は「このチョコレートケーキのセット二つで」と、ウェイトレスに頼んでいた。
その注文が終わると彼女が、
「今日バレンタインだからねっ、倒れて買えなかったから。ごめんね」
と、ぺこりと頭を下げてきた。
「いやいやいや、そんなこと言うなら僕は誕生日に――」
「だーかーらーっ、ネガティブ禁止だよっ。いいの、お兄ちゃんとこうなれた事だけで幸せなのー」
「えーと、それはどうも」
もうなんと言えば良いのやら。
出されたケーキも紅茶も味がわからない。
ようはテンパっているのだ。
この場所と今日子さんからのセリフで。
「ところでさ、お兄ちゃん」
「はい」
「そろそろさ、その、今日子さんってやめない? 兄妹と思えないのは、まぁいいとしても、好きあってるわけだし……」
メニュー表で顔を隠しながら呟く今日子さん。
今日子さん可愛いなと思いながら僕は、
「えーと――善処します。慣れてしまって。はは」
と、煮え切らないことしか言えない僕だった。
「むぅ。仕方ないか。そのうちでいいからちゃんと呼んでね。今日子って」
おそらく一時間くらいだろうか。
終始落ち着かなかった僕だけれど「じゃ次いこぉ」と今日子さんに言われお店を出ることに。
「お会計は私がするからお店の前にいてね」
「いやいや、それは――」
(しーっ)
と、今日子さんに指で口を抑えられた。
どうやら、大きい声をだしてしまっていたらしい。
一先ず外で待っていると今日子さんが出てきたので、
「おいくらでしたか?」
「いいのお兄ちゃん。バレンタインなんだし、ね?」
そういう問題なのだろうか?
「ほれほれ、次行こっ♡」
と、腕を組まれ上のフロアへ。
「今日子さん? ここは僕には入れません。外で待ってますね」
最近の高校生は男連れで下着屋に行くのが流行りなの?
え?
僕が時代錯誤の古代生物なの?
「だーめ。選んで欲しいの」
「無理ですって!」
「お兄ちゃん落ち着いてっ」
もうパニックである。
不審者で補導されるくらいにはキョドってしまった。
「もう――わかったからそこで待っててくれる? すぐ戻るね?」
「う、うん……」
いやいや、これが普通なの?
僕は「高校生 デート 下着屋」で急ぎ検索してみる。
知恵袋くらいしかでてこなかったけど……。
どうやら、割と僕が一般的な気もする。
んー! 今日子さんめ。
暫く落ち着かずウロウロしながら待っていると、
「ごめんねお兄ちゃん、少し時間かかっちゃった」
「い、いえいえ。帰りましょうか――」
「うーん。まぁそろそろ帰らないと叱られるのも嫌だし。うん、帰ろっか……。あ、今日はお兄ちゃんが好きそうな下着だよー♡」
「っ!」
兎にも角にも、こんな感じで学校をサボってのバレンタインデーは中々心労が激しい一日だった。
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