遡 今日子さんの兄は頭が蕩けている
あの日、何故繰り返しから解放されたのか未だに分からずじまい。
さらに言えば僕は――やはり以前の今日子さんの記憶が全く戻らなかった。
さらにさらに言えば、母さんは何処吹く風で僕達に接してくる。
さすがに翌日は風邪の振りをして休んでしまったのだが。
その母も僕達へ「ちゃんと休んでね」と。
高校生の親というのは何処もかしくもこの様なものなのだろうか。
「そうだよお兄ちゃん。友達の家も似たり寄ったり。知らぬ存ぜぬ的な? あはは」
「でもうちは特殊なんじゃないでしょうか……」
「前も言ったけど考え過ぎると頭パンクしちゃうよ?」
確かにそれもそうなんだけど。
にしてもやっぱり寒い。
繰り返しの夜を開けた二日後。
まぁ、分かりにくいが世の中はバレンタイン。
の、その日の登校中だ。
生まれてこの方チョコレートなどという俗物には縁がないのが僕である。
ははは。
「大丈夫だよ」
と、彼女の言う大丈夫が何なのかよく分からないが。
僕の左手には彼女の右手が繋がれている。
厚い手袋が邪魔をしているがそれは仕方ないことだ。
既に。
そう既に僕は今日子さんの『
男女間の周りの人達がどうであるかはわからないけれど。
やはりなのか、僕は――セックスしたという事実だけでこの変わりよう。
つくづく単純な生き物なのだろうと思う。
「いいじゃない私はお兄ちゃんが好き。お兄ちゃんももう一度私を好きになった。結局はそれだけでしょ? ということで今までの時間を取り戻していこぉ!」
今日子さんはそう言いながら繋がれた手を二人分真上に高々と掲げた。
そして僕の顔を見ながらもう一度「おーっ」と叫び、満面の笑みを見せている。
「そ、うですね。僕が今日子さんを……」
「ふぁっ?」
「今日子さんを好きになった。それだけですね」
「ちょちょちょっ! お兄ちゃん私の頭が
「え、今日子さんが教えてくれたんですよ?」
「心臓とまるからだめーっ」
今日子さんは胸に手をあて「うぅっ」と苦しむ素振り。
あくまでも振りをしている様子だ。
「ふりじゃないっ! 朝からやめてっ」
「んー。好きなんだと思いますよ。いえ好きです」
「うっ……」
と、今度は両手で顔を挟み真っ赤になる今日子さん。
どうにも朝から大忙しの様子であった。
だけど、単純な僕はその光景を目にし、
「か、可愛いです。今日子さん」
「……」
「きょ、今日子さんっ!」
先程まで真っ赤な顔した妹の今日子さん。
彼女の顔が赤から白に、いや蒼白の色してその場に突っ伏してしまった。
※
「お兄ちゃん」
「大丈夫ですか?」
「えーと、私の部屋――かな?」
「そうですよ。倒れてしまったので――学校には休みの連絡をしておきましたよ」
「……」
「今日子さん?」
まだ血の気が戻りきらないのか今日子さんは俯き、ぼんやりとしているように見えた。
僕は通学途中で倒れた今日子さんを担ぎ家まで戻り、そのまま彼女を部屋で休ませていた。
勿論二人とも二日連続の病欠扱いで学校に連絡をいれている。
僕は、先程目を覚ました今日子さんに「少し寝てください」と言葉をかけ、ベッドから立ち上がろうと膝に力をいれる。
「うん、でも寝付くまで……」
と、今日子さんは後ろから僕に抱きつき、僕もそのままの姿勢で横に倒れ込んだ。
僕は「寒いですから」と、お互いに布団を被せる。
姿勢は先程の形に収まり、後ろから抱きつかれる形になっている。
彼女が少し息を吸い込むと、
「お兄ちゃんずるいよぅ。今までと変わりすぎ」
「でも――」
「今は話しちゃダメ。また気を失う」
と、言いながら更に僕への力を強める今日子さん。
背中には勿論彼女の体温と胸の柔らかすぎる感触を感じるのだが。
いやいやこんな時に何を考えているんだ。
触りたい。
触って欲しい。
口に含みたい。
口に含んで欲しい。
あー違う。
落ち着け自分。
それをひたすらに繰り返す僕は修行僧。
別のことを考えなければ。
今日子さんの柔らかすぎるんだよな。
昼ごはん何食べようかな。
そういえば今日子さんの絵を見せてもらってなかった。
今日子さんの触りたいな。
それに、挿れたくて仕方ない。
はぁ……。
何をしてるんだか。
それにしても。
全く治まらないのが困りものだ。
硬直魔法を何回かけたのか。
僕はギンギンのパンパンだ。
そこにばかり意識がいってしまう。
暫く僕は葛藤と戦っていた。
どれくらい繰り返したのか。
なんとか僕は無事に勝利を掴むことに成功した。
本当に危なかった。
今日子さんの寝息が聞こえたことを確認出来た僕はゆっくりと自室へ戻った。
またしても学校を休んでしまっているし、二度寝と呼ぶには時間がかなり立っているけれど、一眠りしようと部屋着に着替える。
すると――、ハンガーにかけた制服をクローゼットにかけるタイミングで気が付いた。
背中の辺りがかなり濡れていることを。
おそらくは涙なのだろう。
と、予想はつくが理由がわからない。
結局のところは、僕はいまだに彼女のことを何一つとして知らないのだ。
それだけじゃない。
まさか貧血ぽく倒れ込む人を僕は見た事がない。
最初こそ慌ててはいたけれど、目を覚ますやそんな事は忘れてセックスしたいとばかり考えてしまう自分がいた。
僕は「なんだかなぁ」と呟く事しか出来なかった。
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