お風呂でジンテーゼ
帆多 丁
愚かな人類のアンチテーゼ
「ただいまー」
「おかえりー」
「ごはんにする? お風呂にする? それとも私?」
「令和よ?」
「ごはんにします」
「自問自答なんだ。今日はトマトとシーフードミックスのリゾット」
「いいねー。疲れたー。運んでー」
「まって。いきなり首にぶら下がらないで。足バタバタしないで。靴はちゃんと脱ぐの」
「あとで揃えるからいいんですー。いけー。運べー」
「ぐ、ぬあああああっ!」
「え、そんなに?」
「ずしーん。ぐらぐらぐら。ずしーん。ぐらぐらぐら」
「やだ、そんなに?」
「うそ。楽勝。はい到着。われわれのコンフォートスペース、ダイニングルームです」
「ワンケー!」
「ワン・ディー・ケー。君が思うより稼いでるよ君は。では、着替えて来たまえ」
「はーい」
「着替えた」
「ごはんとリゾットよそった」
「ほかほかと湯気を上げるツヤツヤのごはん。トマトのお風呂で柔らかくほぐれたシーフードミックスと、その旨みがギュギュッとつまったスープ。そしてスープに隠れるプチプチの大麦! 隠し味はオレンジジュースですね?」
「そうだよー。詳細な解説ありがとう」
「えっへん。なぜ言葉にするかと言いますと、そうする事で私の味覚がターゲットを定め、君のごはんの味わいがまた深みを増すからであります。外側からの刺激に内側から名前を与える事で
「冷めるよ?」
「いただきまーす」
「あれ? めっちゃ無言だね」
「全集中、食事の呼吸、一の型、三角食べ」
「
「反復横食べ」
「おいしい?」
「んふふふふふ」
「よかった」
「ねー、大晦日の歌合戦で、呼吸のアニメの歌やってたじゃない」
「呼吸のアニメではないね。でもわかる。やってたね」
「それの次が『残酷な天使のせいで』だったじゃん」
「テーゼだね」
「そうそうそれ。それでここからが本題なんだけど、テーゼってどういう意味?」
「本題に使う単語を間違ったんだね。テーゼって、あれだよ。意見A」
「A?」
「うん。で、対する意見Bがアンチテーゼ」
「アンチどもが」
「憎しみは何も生まない。この意見AとBで議論して、よりよい意見Cが生まれたらたらいいよねっていう」
「なるほど。じゃあ意見CはBANテーゼ?」
「アカウント凍結を目指さないで。ジンテーゼっていうらしいよ」
「そっかー。じゃあアレは残酷な天使の意見Aに対して愚かな人類の意見Bが戦うアニメなんだね」
「いやっ……! あれ、意外とそういう事でいけちゃう? いやいやまさかそんな。どう解釈するべき……?」
「ごちそうさまでした」
「あ、お粗末様でした」
「ね? お風呂にする? 私にする? それともアニメ?」
「選択肢が増えたね」
「だって、どう解釈するべきか、見なおしたくなってるでしょ?」
「そうだけど……よし、じゃ、お風呂にはいって、それからアニメでいい?」
「私は?」
「それは……どこか……よろしいタイミングで」
「あらあらー。じゃ、お風呂いこっか。運んでー」
「はいはい、では、つかまって。よいしょ」
「んふふふふ」
「あ、ほっぺたに暖かくて柔らかいものが」
「私のテーゼです」
「……」
「ほらほら黙ってないで、アンチテーゼをどうぞ」
「……アンチテーゼ」
「んふふふふ。お風呂と私でジンテーゼ」
「ジンテーゼは、そういう、意味では、ないの」
「お風呂でジンテーゼしよう」
「聞いてる?」
お風呂でジンテーゼ 帆多 丁 @T_Jota
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