令和の怪しいセールスマンが手招きする、世迷い人たちの明日はどっちだ

少しずつ読もうと思っていたのに、面白すぎて気付いたら読了していました。なんてことだ……

謎のセールスマンが悩める人に怪しげなアイテムを紹介するオムニバスという、往年のブラックユーモアホラーをオマージュした作品。
しかし本作のセールスマンはZ世代と思しきユルい青年で、章ごとの主人公たちが抱える悩みも昨今の風潮を反映したものであり、どれも今を生きる私たちにとって深い含蓄のあるストーリーになっています。

私個人のおすすめは2つめの『霊柩者』。
あまりに遣る瀬無くて哀しくて、泣いてしまいました。

セールスマン・大黒招吉のキャラがすごくいい。
漫画風の口の絵が描かれたマスク、若さと元気が取り柄みたいな謎テンション、ヤバい酒のペース。
更には不気味な「おいで、おいで——」。
彼が何者なのかよく分からないんですが、根本的に善人であるのは確かです。絶妙なバランスのキャラクター性です。

各章の悩める主人公の一人称で綴られる文章も、随所にどきりとするような表現があり、素晴らしいです。
ドライなのに艶っぽかったり、淡々としているのに些細な機微から大きな情動まで伝わってきたり。独特の質感で、癖になります。
その人らしい語り口が、血肉の通った人間の人生を追体験させてくれます。

どのお話も本当に面白かったです!
もっと多くの人に読まれますように!

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