Epilogue. 神様がいてもいなくても

 強さを増した北風が私たちの頬を切る。自分の輪郭に沿っていた冷気がじわじわと体の奥に沁み込んできた。

「そろそろ行こうか」

「そうだね」

 辺りが暗くなってきたからか、明るさが増したように見える自動販売機の前で私は頷く。歩き出そうとして、しかし彼はすぐには動かなかった。

 それから「ねえ」と私に呼びかける。

「そういえば言い忘れてたんだけど」

「ん?」

 彼は私の目を見た。視線を返す私は、彼の瞳が透き通るような茶色であることにはじめて気付いた。


「君が好きだよ」

「うん、私も好きだよ」


 これから何を言うか分かり合っていたかのように、するりと口から言葉が滑り出した。そのことに二人して驚いて、小さく笑い合う。

 そしてどちらからともなく手を繋いだ。

「あったかいな」

「さむいよ」

 私たちは笑いながら、手を繋いだまま歩き出す。自動販売機の灯りが遠ざかっていく。二人の財布の中に百円玉はない。

 けど、それでいいんだと思う。

 神様なんていてもいなくてもどっちでもいい。どちらだろうと、きっと私たちの未来は変わらない。

 幸せになりたい私たちは、幸せになるために勝手に頑張るもんね。

 だから、やっぱり。


 ──普通の女子高生に、神様へ願うようなことなんて特にない。



(了)

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神様の百円玉 池田春哉 @ikedaharukana

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