騙された!マジカル・トランスフォーメーションで年収1000万ゴールドなんて無理じゃん!

もぐの

第1話 プロローグ

「…で?昨日から急におたくの在庫管理魔法回路(サーキット)に繋がらなくなった原因はいったいぜんたいなんなんだ?」


武器屋の主人が丸太のような腕を組みながら僕を睨む。


「あ…ええと、名付けの精霊ディネスとの契約が昨日で切れてしまったみたいで『グラブラ商店在庫管理』と言う起動呪文が使えなくなっていました…」


「よく分かんねぇけどよ。困ってんだよ。さっさと直してくれよ。」


「復旧にはディネスとの再契約が必要です…どうも1年ごとに2万ゴールドで契約を更新する必要があったらしく…」


主人の顔が一層険しくなる。


「ああ!なんだ!また金か!!お前回路を作るときにも「人が足りねえ」「マナが足りねえ」って散々金をせびっただろうが!」


「そうは言ってもそういう仕組みでして…あっ!ほら!仕様書のここに書いてありました!ディネスの更新料のこと!分かりにくいですけど!!」


僕の指摘に主人は一瞬ひるんだが、すぐに僕をまっすぐに見つめ直した。怒りではなく、真剣な表情だ。


「あのな。俺は8歳のころに大戦で両親に死なれてな。ゴミ捨て場に捨てられてた銅の剣をピカピカに磨いて露店で売ることから始めてよ。この年でようやく店を持って3人の店員を養えるようになったんだよ。それがなんだ?国策の…魔法改革(マジカル・トランスフォーメーション)とか言ったか?そのトランスなんとかに協力しようとしたらこのザマだ。面倒は増えるわ金は底抜けにかかるわ。そこをしっかりしてくれるのがお前ら魔法技術屋じゃないのかよ?なぁ。」


1時間にわたるお説教ののち、なんとか契約料を払ってもらうことで決着した。


隣国、アリステアルの脅威が日に日に大きくなる今日。国の防衛にあたる兵士を確保するために我が国マイストが取った「魔法回路を活用した業務効率化による労働人口の削減」。それが魔法改革(マジカル・トランスフォーメーション)だ。


しかし、マイストは伝統的に腕力を重んじ魔法を軽視していたため、回路を組める魔法技術屋が圧倒的に少ない。そこで王室は魔法技術屋養成学校(スクール)の設立に補助金を付けることで、魔法技術屋を短時間で育てる施策に出た。


そして僕は、そんな学校の卒業生と言うわけだ。


18歳になっても定職に就けず、朝から晩までポケポンに興じて夕飯代すら残らないような堕落した生活。そんなある日、ギルドに貼ってあった張り紙の「学校で6か月鍛錬すれば、年収1000万ゴールドも夢じゃない!」と言う謳い文句はとても魅力的だった。


学校での魔法回路の作り方や精霊との契約の授業は案外簡単で、卒業時には教科書通りに呪文を詠唱することで、見栄えのいい回路を組める腕前になっていた。


これで僕も魔法技術屋だ。これで1000万ゴールドが稼げるとかボロい商売だなと思ったものだ。


意気揚々と求職活動を開始。ほどなく近所の地方都市バランドの魔法回路会社に就職が決まった。給料はやたらと安いが「まずは会社でノウハウを適当に吸収して独立するのが高給取りの秘訣だ」と学校の先生が言っていたので妥協した。


さぁ、僕の魔法技術屋としての明るい未来がここから始ま…


「騙された…ほんと騙された…契約更新いるとか誰も教えてくれんかったわ…」


…始まらなかった。


この物語は、そんな僕の(無駄な?)努力と挫折と成功(であってほしい)の物語である。

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騙された!マジカル・トランスフォーメーションで年収1000万ゴールドなんて無理じゃん! もぐの @moguno

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