最終話 フライングゲットプロポーズ

 裕美は、僕がいかに鈍感なのかについて色々な思い出話を始めた。


「私さ……ずっと好き好きオーラ全開で出しまくってたのに、祐介ったらちっとも気づいてくれなかったんだもん」


「そんな事ないよ。好かれてる確信に近いものはあったんだ。でも確信に近いじゃだめで、100%絶対上手くいくくらいでないと怖くて告白出来なかった。それくらい好きだったんだ」


「渋谷に買い物に行った時の事覚えてる?」

「ごめん、何かあったっけ?」

「もう! やっぱり鈍感なんだから」


 裕美は僕の頭をちょっと小突いてから話を続けた。


「あの時さ、私『疲れちゃったな~』って言ったでしょ」

「あー思い出した。それで早めに帰ったんだよね」

「あれ言葉どおりとらないでよ。本音はね、(あなたともっとずっといっしょにいたい、どこかで休みたい)だよ。女の子にそんな事言わせないで」


「そんなの分かる訳ないって。僕にはテレパシーなんてないし」

「あーあ。なんでこんな鈍感男好きになっちゃったんだろう」

「裕美にそんなあざと可愛いい面があったなんて知らなかったよ」

「私がもしインスタやってたら、きっと山のような匂わせ投稿してたかもね」



「ディズニーランド行ったよね」

「ああ。すごく楽しかった」


 忘れられない思い出だ。


「特にホーンテッドマンションで君に抱きつかれた事は絶対に忘れられないよ。意外と怖がり屋なんだって。今だから言うけど、(わ、胸でかっ)なんて思った」

「もう~エッチ! 私も今だから言うけど、あれわざとだから」

「えっ!」

「私おばけとか全然怖くないから」


 そう言えば、どう考えてもおばけを怖がるようなキャラじゃないよな。


「極めつけが祐介のマンションに遊びに行った時」

「もしかして……これは何となく分かるよ。でもあの時は本気で心配してたんだよ」


 裕美がマンションに遊びに来た時、腹痛を訴えたんだ。さすがに奥手の僕でもこれは雑誌の記事か何かで読んで「遠回しに誘ってる」って事は知ってた。


「お腹が痛いなんて嘘に決まってるじゃん。どうして分かんないかな」

「やっぱりそうか。でもどうしたらいいか分からなかった」

「バーカ。でもこれでますます好きになっちゃったんだよね」


 恥しながらこの時、僕はまだ童貞どころか、ファーストキスさえ未経験だったのだ。


「だからね、もうこの鈍感男には直球でこっちから告るっきゃないかなって。それか、またマンションに遊びに行って、逆に押し倒すか(笑)」


 裕美そんな事考えてたんだ。今更だけどなんかすごく嬉しいな。


「ちょうど覚悟を決めて告ろうと思ったすぐ後だよ。祐介が佳奈さんと付き合い始めたのは」


 何ていう間の悪さだろう。神様、あなたはなぜそんなに残酷なんですか?


「祐介と佳奈さんが付き合ってるって知った日、私悲しくて一晩中泣いたんだからね。もう涙が枯れて出なくなるかと思うくらい泣いた。どうしてもっと早く告らなかったんだろうって、凄く後悔した」

「ごめん」


「2月頭だったでしょ。ちょうどバレンタインデー直前で、手作りチョコレートも準備してた。『義理じゃないよ』っていうメッセージと一緒に渡そうと思ってた。それをきっかけに告れたらいいなって」


 うわ~裕美の手作りチョコかあ。絶対欲しかったな。きっともったいなくて食べられなかっただろうけど。


「そんなこだわりで、佳奈さんとはタッチの差で先越されちゃった」

 本当だ。佳奈は間違いなく僕と裕美の関係に気付いてたから。


「他の人が相手なら、きっとどんな事をしても奪いに行ってたと思う。でもあの佳奈さんじゃ勝ち目はないからもう戦意喪失」

「本当にごめん」


「綺麗なだけじゃなくて、バレンタインの力を借りずに、あと少しのタイミングで告れるなんて凄すぎて」

「実は君の圧勝だったんだよ。間違いなく」

「噓っぽいなあ、まーいいか」


「佳奈が何故僕の事を好きになってくれたのか良く分からないんだよね。未だに世界7不思議の一つだ」

「私……何となく分かるような気がする」

「えっ?」


「祐介ってさ、佳奈さんの事を全然ちやほやしなかったじゃない。きっとそれが新鮮だったんだと思う」

「そういえばそうだなあ」


「そんなの、マミーでは祐介だけだよ。佳奈さんくらい美人だったら、男の人にちやほやされるのが当り前の日常みたいになってると思うんだよね」


 確かに。店長なんて妻子もいて佳奈との年の差が孫くらいあるのに、露骨にエコヒイキしてたし。他の女性には塩対応でも、佳奈にだけ妙に愛想良かった奴なんて山のようにいた。


「そうか。恋愛マニュアルとか雑誌の恋愛記事でさ、良くモテる人の口説き方みたいな事が書いてあって、わざと冷たくするのがいいんだって。そんなの嘘だろって馬鹿にしてたけど、本当だったんだな」


「でも意図的に冷たくしたってすぐ見透かされるよ。祐介の場合は無意識だったからだよ。本当に他の女の子とちっとも変わらない対応してたもん」


 僕の場合、佳奈は初対面でもう口説くのは不可能だと思ってたからな。更に裕美に会ってからは裕美に夢中だったし。


「やっぱ裕美はスゲーよ。なんでもお見通しって感じだ。おみそれしました!」

「どーだまいったか。絶対悪用厳禁だぞ。職場のアイドルを口説くのに使うなよっ!」

「使うかよっ、バーカ!」


 僕は裕美にプロポーズしたいと思った。まだキスもしていないし、今告白したばかりなのに。順番がおかしいよねやっぱり。でも止まらない。6年前のもどかしさの反動なのかな。


「君よりも魅力的な女の子とは、その後一人も会えなかった。6年前の過去形じゃない、やっぱり今の君が好きだ。裕美、僕と結婚してくれないか」


「本当は6年前に聞きたかったな。でもいいか。私ももちろん今の祐介の事が大好き」


 裕美はそう言うと、周りの目もはばからず僕に抱きついてきた。


 僕も思わず強く抱き締め返す。そして裕美のほっぺにキスをすると、裕美は目を閉じた。僕は軽く唇を重ねた。ファーストキスよりドキドキした。


「でもね、結婚はいくらなんでも早すぎるよ。結婚を前提にお付き合いするっていうのはどう?」

「もちろんОKさ。これからもよろしく!」


 僕と裕美は、それから3年間付き合ってから結婚した。



 思い返せば、自殺を考える程の辛い失恋があったからこそ、こうして一番好きだった人と結ばれる事が出来た訳だ。


 どんなに辛い失恋だって、次の恋が素晴らしければいい思い出なんだ。あの時自殺なんかしなくて本当に良かった。


 今こそ胸を張って言える。ふられてBANZAI!



◇◇◇◇◇◇



「ふられてBANZAI! ~失恋したから前へ進めた。青春を取り戻せ!」を読んでいただきありがとうございました。


 現在、カクヨムweb小説短編賞2021「恋愛・ラブコメ」にエントリーしてます。


 この小説は私が初めて作った作品のアナザーストーリーです。


「好きだから、好きと言えなかった君へ~僕は再び「好きだ」と言えない恋をする」


https://kakuyomu.jp/works/16816700429596603578


 もし裕美のあざと可愛さに惹かれたり、祐介の不器用さに「しょうがないな~」なんて感じたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。



 よろしければ、私の新作の長編小説「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

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ふられてBANZAI!~失恋したから前へ進めた。青春を取り戻せ!【カクヨムWeb小説短編賞2021中間選考通過作品】 北島 悠 @kitazima

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