最終話 野暮なこと

「秋っ……灰谷君?」


 俺の姿を見て目を丸くしている二人を見て、怖気付きそうになったがここで引き下がるわけには行かない。


「影井は航也先輩が好きのんだろうけど、俺は影井に他の男と付き合ってほしくない」

「え、あ、あの……」

「俺……影井のことが好きだから‼︎」


 ついに俺は影井の前で自分の気持ちを伝えてしまった。

 航也先輩になんて勝てるはずもないのに告白をするなんてただの自己満足だと思われても仕方がないが、それでも気持ちを伝えずにはいられなかった。


「--っ⁉︎」

「あ、あの……灰谷君……だっけ?」

「……? はい。灰谷ですけど」

「あのさ、僕今丁度告白して振られたところなんだけど」

「……へ?」


 こ、航也先輩が振られた? 男の俺でも惚れてしまいそうになる程イケメンの航也先輩が?


「ね、影井さん」

「う、うん……。今丁度……」


 な、なんてタイミングで俺は告白してしまったんだ⁉︎


 そ、それじゃあ今俺が告白した意味って……。


「ゔっ、ゔぅぅ……」

「恥ずかしがることなんてないんじゃない? 僕には今の君がすごくかっこよく見えたよ。それじゃあ僕はこれで」


 そう言って航也先輩は校舎裏から姿を消した。


「秋君、私、ちーちゃんだよ? 覚えてない?」

「ちーちゃん?……いやそんな人記憶に無いけど……ってまさかあのちーちゃん⁉︎」

「そっ。あのちーちゃん」


 全く気付いていなかったが、影井は僕が引っ越す前によく一緒に遊んでいた幼馴染だったのだ。


 ちーちゃんは男勝りな性格だったので、まさかあのちーちゃんがこんな美少女に成長するなんて……。


「ま、まさか影井があのちーちゃんだなんて……」

「私もびっくりしたよ。まさかまた秋君に会えるなんて。それにこうして、私に想いを伝えてくれるなんてね」

「は、ははっ……。迷惑だっただろ」


 僕は知らぬ間に、同じ人に恋をしていたのか。


「迷惑なんてそんなわけないよ。すっごく嬉しい。私も秋君が好きだから」


 そう言って徐に近づいてきた影井に見惚れている間に、僕は唇を奪われてしまっていた。


「な、今何した⁉︎」

「さぁ? 別に何もしてないと思うけどー」

「な、何もしてないってお前な……。てか今好きって⁉︎」

「さあ、そんなこと言ったっけ?」  

「言っただろ⁉︎ 覚えてないとは言わせないからな‼︎」

「えー、でもまだこのドキドキを楽しんでたいしなぁ」

「お前ってやつは本当、過去も現在も一貫してるな……」

「未来も?」

「なんでもねぇよ」


 今も未来も全てを影井に振り回されながらも、ドキドキを楽しみたいという影井の意見を尊重して友達から関係を始め、半年が経過した頃に付き合うこととなった。


 結局なぜ未来の影井がやってきたのか分からずじまいだが、まあそれは愛の力ってことで。






 ふぅ……。気持ちが抑えきれなかったけど、やっぱりズルは良くないもんね。


 変身を解除した私は結果を見届けることなく未来に帰ることにした。


 未来で私と秋君が付き合い始めたのは成人式の後。


 それでは秋君との思い出があまりにも少なすぎると、この時代にやってきたわけだけど……。


 過去の秋君を操作して過去の私と付き合わせるなんて良くないよね。


 そう思った私は、一度は私に告白してと言っておきながら、未来の秋君の姿に変身して私が秋君のことを好きだという情報を好きではないという情報に上書きした。


 きっと私が未来に帰る頃には、過去が塗り替えられている。


 そう信じて私は未来へと帰還したのだった。

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未来から来た学校一の美少女が自分に告白しろとだけせがんで帰っていった 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d

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