第5話 完成はしたけれど
オーブンで焼いていく内に、香ばしい香りがしてきた。
小麦粉のパンが焼き上がるときとは違う、お米の炊き上がるときに似た香りがするのだ。
そして、とうとうついにその時が来た。
チンッ!
オーブンが出来上がりの合図の音を出した。生米パンが焼けたのである。
私はいそいそとオーブンから取り出し、丸パンを手に取ってみる。
アツアツだ。
それを手でぱかっと、半分に割ってみる。割ったときの感触は、クッキーを割った感じに近いものがある。正直言って、焼きたてのパン独特の生地がふわっとする感じはまるでない。しかし、中からお米が炊き上がったときに似た良い香りの湯気が立つ。
恐る恐る、一口食べてみた。
――美味しい……かもしれない!
もちろん、人に出せたような代物ではない。
本来、生米の生地をとろりとしなければならなかったところを怠ったので、生地の中に米粒が砕けた状態のものが残っている。それがごそごそするのだ。
本来はふわっとした食感のパンになるはずなのだろう。しかし私が作った丸パンは、フランスパンの食感に似ている。いや、下手するとフランスパンよりも外が固いかもしれない。中は外よりも柔らかい程度。
しかし、ちゃんと作ることが出来たら、米の風味がする、美味しいパンが出来そうだなと思ったのだった。
ただ、残念ながら、このパンが食べられたのは出来上がった瞬間だけである。
その後は冷めていくにつれて、カッチカチに固くなってしまった。キャッチボールが出来るほどに。
これは米粉の性質のせいだろうと思われる。米粉パンもそうなのだが、出来上がってから時間が経つにつれて固くなってしまうのだ。聞くところによると、米粉は持っている水分を空気中に出しやすいのだという。
私が分量も考えずに、テキトウに入れてしまったので、こんなことになってしまったのだろう。
また酵母の臭いが生地に残っていて、それが鼻についた。口に入れると、ほんのり米の甘みが感じられると同時に、酵母臭さが交互に来る。
他にも反省すべき点があるが、作って思ったのは、生米パンには可能性があるということだ。
作るのはそう簡単ではないし、難しいことは確かだ。(いや、私の場合は、材料から無視したので、自分でハードルを上げてしまっただけかもしれないが……)
そもそもパン作りが簡単ではないのだから、生米でやったら大変なのは当然のことだろう。
でも、出来上がったときのあの香り。
不思議と良い香りだった。口に入れると酵母臭さはあったが、米の味だけを考えると癖がなく、優しい味わいである。これはまた作ってみたいと思わせるような魅力があった。
それに生米だったら、米粉と違って自分が好きな銘柄で作ることが出来る。もちろん、米粉も種類が増えているし、小麦だって種類を選べるのは分かる。だが、生米はその比ではない。
ここは日本。しかもブランド米が次々に出ている今の時代であるから、きっとさまざまな銘柄を楽しむことができる。
普段食べているお米で作るのもいいし、作るパンによって銘柄を変えるのもいい。米の種類で特徴も違うから、いつも同じように作れるとは限らないが、面白そうではある。
今回は思い切り失敗してしまったが(レシピ通り材料を揃えないのがいけない)、いい経験だった。失敗はしたが、次に生かすことが出来る資料が手に入った、と私は思っている。
パン作りというものを経験することが出来たし、何より生米でパンが作れる可能性を知ることができた。「生米でパン」は邪道だと言う人もいるかもしれない。しかしこれがもっと広がれば、アレルギーの子もパンを食べられるし、その上、米の消費量の手助けにもなるだろう。
食の進化は、これからもきっと続く。
私も今回だけで終わらずに、また挑戦出来たらいいなと思う。
(完)
生米でパンを作ったら、カッチカチの丸パンが出来上がった話 彩霞 @Pleiades_Yuri
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