第12話 女性の仕事を奪うってなあに その1
さて。これもまた、別の週末のお話です。
タケシ君は朝食をとりながら、朝のうちにやっているお気に入りの特撮番組を見たあと、パパといっしょに仲良く部屋の掃除をしていました。
パパとママは、寝室は同じにしていますがそれぞれに小さいながらも自分用のスペースを持っています。これは、それぞれ大切にしているオタク的な「宝物」をしっかりと保存し、お互いの領分を侵さないために重要なこと……なのだそうです。ママによればですが。
「よーし。これで大体できたかなあ」
パパはママの個人スペース以外のすべての部屋に掃除機をかけ、一旦作業を終わりました。タケシ君はそのあとについてホコリとりのモップをかけたり、ぺたぺたくっつくローラーでマットの上をきれいにする係です。こちらの作業もほぼ同時に終了しました。
ふたりは適当に後片付けをしてリビングで休みます。
ママですか?
はい、ママは例によってオタクな活動のため不在です。そういうことが多いのですが、もちろん平日はちゃんと家事もやっていますよ? 念のため。ちゃんと言っておかないと、なんだか殺されそうなのです……。
「ねえねえ、パパ」
タケシ君は、パパがコーヒーメーカーをセットし終わるのを見計らって聞きました。今日は珍しくパパの個人スペースにもお邪魔したタケシ君でしたが、じつはひとつ気になるものを見つけたのです。
それでさっきから、質問するタイミングを待っていたのでした。
「ん? なんだい」
「パパの部屋に貼ってあるポスターとかフィギュアとか、ママは見たことないのかな?」
「あ? ああ……そうだね。ちらっとなら見たことはあるし、知っているけど、特に何も言われたことはないかな。……ある意味、いろいろとお互い様だし……」
パパ、ママのことになると急に語尾がもごもごと不明瞭になります。まあいつものことですね。
「まあ、あんまり性別であれこれ分けたくないんだけど、大まかに言って女性向けのコンテンツと男性向けのコンテンツって分かれているしね。この間もそんな話をしたけれど、やっぱり男性向けの一部の作品は、女性にとってあまり目に入れたくない種類のものがあるし」
「うん。そうだろうねー」
タケシ君、なんとなく目と声を平板にしました。
要するにあれでしょう。女の人が裸に近い格好をした、ちょっとエッチな作品ということでしょうね。
「パパ、この間も言ってたけど。男性向けの作品でも、女性が描いてるってことは多いの?」
「ああ……いや、やっぱり男性作家のほうが圧倒的に多いだろうけどね。中には女性の作家もいるっていうことさ。男性で『美少年・美青年が好き』って人は多くはなさそうだけど、女性で『美少女・美女が好き』って言う人はけっこういらっしゃるしね」
「へー。そうなんだ」
「後者のほうが、大っぴらに言いやすいっていうのはあるんだろうけど。で? 今日はなにが訊きたいんだい、タケシ」
「うん。えーっとね……」
実はタケシ君、昨日クラスメイトの男の子にこんな話をされたのです。その子にはずっと年上のお兄さんがいるのですが、先日の「裸リボンの少女のイラスト」についてこんなことを言っていた、と。
『イラストを描いていたのは女だったんだから、それを描くな、見せるな、売るなって言ったらその人の仕事を奪うことになる。女性の権利がどうこう言うんなら、その女性の権利だって守るべきなんじゃないのか。おかしいだろ』と。
「あー。そういう話ね。うんうん、あったねえ」
タケシ君の話を聞いて、パパは納得したようでした。というか、すでにそういう意見についてパパは知っていたようです。先日の話のときには、わざわざその話をしなかったということなのでしょう。
「この間その話をしなかったのには、理由がある。あの時、あのイラストに否やを唱えた人たちが、多くの場合僕らみたいな子どもをもつ親たちと、いわゆる『フェミニスト』なんて呼ばれる人たちだったからなんだよ」
「ふぇみに……すと? ってなに」
「簡単に言うと、女性の権利を主張する人たち。あのイラストの件のときにも『ああいう女性をモチーフにした性的な絵を目にすると不快になるので、もっと隠れたところでやって欲しい』といった主張をしていたわけだね。まあ、もっともっと過激なことを言っている人たちもいたけれど」
「ふーん……??」
タケシ君、よく分からなくて首をかしげました。
「そちらはそちらで、あまりに過激というのか、言いすぎというのか……オタク男性たちをひとくくりにして蔑称で呼んだり、ずいぶんとひどい言い方をしている人たちがいた。正直いって、あんまり賛成はしたくないし、できない。まあ、パパはだけどさ」
「うん」
「だからと言って、さっきタケシが言ったみたいな『イラストレーターは女性。だから制限して仕事を奪うのは女性の権利を侵害している。おかしい』みたいな主張も、それはそれでどうなんだろう……? というのがパパの考えだった」
「ん……? どういうこと?」
「うん。まあちょっと座ろうか」
言ってパパは、できあがったコーヒーをもってソファのところにやってきました。タケシ君のためのジュースも一緒にもってきてくれます。
そうして、あらためて話が始まりました。
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