第3話 タケシ君の疑問 その3
「え~? そんなの、おぼえてないよ……」
今度はタケシ君が困った顔になりました。
「じゃあ、こんどママにも聞いてみるといいよ。タケシは『湯ば○ば』が最初に登場したとき、びっくりして立ち上がって、部屋の外に逃げ出した。それから、柱の陰に隠れてじーっと画面を見ていたよ。まさに『怖いもの見たさ』って感じでね」
「ほんとにい!?」
うわあ、うわあ、はずかしい。
ちょっと想像するだけでも顔が赤くなってしまいます。
「こんな風に、小さな子どもは画面の中で起こっていることも、本当に自分の身に起こっているのと同じように感じるらしいんだ。フィクションとリアルとの境目がとても
「ふ、ふーん」
「一説には、だいたい6歳ぐらいまではその区別がつきにくいという意見もある。だから、たとえば特撮ヒーローなんかがお話の中で死んでしまったりすると、小さなお子さんから『どうしてあのヒーローは死んじゃったんですか』『かわいそうだから生き返らせてほしいです』みたいな意見が、テレビ局にたくさん寄せられたりする」
「あ~。それはわかるかも」
タケシ君はむかし、大好きだった特撮ヒーローたちが、味方のはずなのにお互いに戦って傷つくのを見てとても悲しい気持ちになったのを思い出しました。
「なーるほどー」
「特撮で思い出したけれど、今でもやっている『仮面ラ○ダー』っていうシリーズがあるよね」
「あ、うん」
「あれの最初のテレビシリーズが放送を開始したのは、1971年なんだそうだ。そして当時の子どもたちに爆発的な人気を博した。ライ○ーの必殺技に『ライ○ーキック』というのがあって、日本全国の子どもたち……まあ、とくに男の子たちだね。かれらがしきりに真似をして遊んじゃって、ケガをする子が出たらしくてね」
「へ~」
「それで、とうとうそのライ○ーに変身する主役の人が、物語の中で少年たちにこう言うシーンが作られた。『ラ○ダーキックは仮面○イダーだからできるんだ。君たちがむやみにやっては危険だから、やっちゃダメだぞ』ってね」
「へー! そんなことがあったの!」
「そう。そのぐらい、人気番組は子どもたちの心に影響しやすいということでもある。とくに、真似をして実際にケガなんかしちゃうのは困るわけだよね」
それはたしかにそうだな、とタケシ君は思いました。
自分だって、とてもカッコいいヒーローの必殺技なら真似をしてみたくなることがよくあるからです。五年生になってもそうなのですから、もっと小さい子はもっとそうなのではないでしょうか。
「じゃ、ほかのは? R18は?」
「ああ、その前に」
言ってパパはすっかり冷めてしまったコーヒーをごくりとひと口飲みました。
「いま話しているPG12とかR18とかいうのは、まとめて『レイティング』と呼ばれているんだ。まずその名前を覚えておいてね」
「れいてぃんぐ?」
「そう。じゃ、あらためてR15とR18についても調べてみよう」
パパはまたスマホの画面をすいっと指先で動かしました。
「ここにあるね。『「R」は
「えっ! 禁止なの!?」
「そう。まあ別に、犯罪みたいに罰則があるわけじゃないんだけどね」
「あ、そうなんだ」
タケシ君、ちょっとほっとして胸をなでおろします。
「でも、こちらはさっきのPG12より明らかに厳しい制限がかかることを意味しているよ。PG12よりも刺激が強くて、15歳未満……まあ、大体中学生ぐらいかな。そのぐらいまでの子どもたちが見るには不向きとみなされる作品ということだね」
「そうなんだ。じゃあ、R18は18歳未満はダメってことだね?」
「そうなるね。特にR18は『暴力的・性的なシーンが含まれたり、麻薬・覚せい剤使用を含むなど極めて刺激が強い作品』とある。つまり完全に成人向けということになる。ところによっては身分証の提示も求められるはずだよ」
「せ、せいてき……?」
「うん」
ここでパパはまたちょっと困った笑顔になりました。
「ある作品が性的かそうでないか、ということはこれまでもずっと議論されてきたことで、まだちょっとタケシに詳しく説明するのは難しいかなと思ってる。でもまあ、できるだけ話はしようと思うよ。……とりあえず、いまの三つのほかに『G』もあるからこっちも覚えておいて」
「ジー?」
「そう。『G』は『
「ふーん……」
「話すだけだとわかりにくいよね。ちょっとまとめてみようかな」
言ってパパは電話機のそばのメモを取ってくると、ボールペンでさらさらとこんな感じのことを書き出しました。
G 全年齢向け
PG12 12歳未満の人は保護者と見て助言をもらうことがおすすめ
R15 15歳未満の人が見ることは禁止
R18 18歳未満の人が見ることは禁止
「へ~」
と、タケシ君が渡されたメモをながめていた時でした。
ガチャリと玄関の鍵が開く音がしました。ママが帰ってきたのです。
「ただいまあ」
「あっ! ママぁ! おかえりなさーい」
タケシ君がそう叫んで玄関に歩いていったので、結局この夜のお話はそのままおしまい、ということになりました。
なにしろ、気がつけばもう十時近くになっていたものですから。
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