第4話 表現の自由ってなあに その1
さて、これはまた別の日のお話です。
今回は、ママはなにやら大切な用事があるとかで出かけていった日曜日。
お昼ごはんも終わってのんびりとスマホを見ていたパパが「あー、これは……」と言ったきり、ちょっと考えこむ顔になったのです。
タケシ君はお気に入りのレ○ブロックでタケシ・オリジナルのロボットを熱中して作成していたところだったのですが、ソファにいるパパがあんまり神妙な顔だったので声をかけました。
「どうしたの、パパ」
「あ、いや」
スマホ画面から目をあげたパパは、先日と似たようなちょっと困った顔で笑いました。
ぴーんとくるタケシ君。
これはどうやら、父子のオタク談義がはじまりそうな気配です。
タケシ君は「ふうん」と気のなさげな顔で言いましたが、すすっと動いてキッチンに入りました。
「パパぁ、コーヒー飲む? そろそろおやつにしようよー」
「え? ……ああ、ありがとう」
パパ、ちょっぴり驚いた顔になりました。タケシ君が自発的に家族の飲み物を用意するなんて、めったにないことだからでしょう。これはタケシ君もちょっぴり反省案件ですが、今はどうでもよろしい。
大事なのは、ここからどう話をもっていくかです。
タケシ君は自分のための炭酸入りジュースもちゃっかり準備して、コーヒーカップと一緒にお盆にのせ、お菓子を準備してソファのところまで運びました。
パパは「ありがとう」と言って、また神妙な顔でスマホ画面を見つめています。
「……ねえパパ。なにかあったの」
「えっ。あー……うん。ちょっとね」
答えてぽりぽり頬を掻いています。
もちろんタケシ君は知っています。これが、ちょっと説明しにくい案件が発生したときのパパの癖だということを。
そこからいくら待っても、次なる言葉は発せられません。
だんだんじりじりしてきたタケシ君、とうとう水を向けました。
「またSNSでなにかあった?」
「あー。んー。まあ、そうなんだよねえ」
「教えてよ。なにがあったの」
そこでパパは、さらに困った顔になりました。「いや」と言いかけて「ん~、でもなあ」と考えこむ様子です。
「でも、そうだな。この間もそういう話をちょっとしたわけだし……話しておくのもいいかもしれないね」
(やった!)
タケシ君、心の中だけでガッツポーズを決めます。
「このあいだ、タケシにレイティングの話をしたよね」
「ああ、うん」
「R15とかR18とか、見る人に年齢制限が課される映画やマンガなんかがある、っていう話だっただろう?」
「うん、そうだね」
ということは、今回もどうやらそれにまつわるお話のようです。これは期待大。
タケシ君は思わず上半身をぐぐっとパパに近づけました。が、パパはスマホの画面をタケシ君に見せないよう、微妙に向こうに向けてしまいました。
「えーとね。今回は、とあるお店の中で開かれていたイラストの展示会のお話なんだ」
「展示会? 絵の展覧会とはちがうの」
「それとはちょっと違うかな。絵の展覧会は基本的に美術館や博物館で行われることが多いけど、これはデパートなんかの大きな商業施設の中に、それ専用のスペースを作って行われる、イベントとしての絵の展示会なんだ」
「ふーん」
タケシ君としては「そんなのがあるのか」といった程度です。
「入場料は、とる場合もとらない場合もある。お客さんが入って、絵をひと通り見て、その絵を使って作られたグッズを買うことが多い。クリアファイルだとか、キーホルダーだとかいうやつだね。まあそんなイベントだよ」
「ふうん。それがどうしたの?」
パパは、はあ、とため息をこぼしてコーヒーをひと口飲みました。
「今回、その絵の中にR18か……まあ少なくともR15にはなるんじゃないか、と思われる絵があったらしくてね」
「ええ?」
「いや、いいんだよ。別に、入り口にそういう張り紙なんかがされていて、外から中の絵が見えないようにしてあるならね。もしも作品がR15とみなされるなら、それ以上の年齢の人だけが入れるようになっていればよかった。こういうのを『ゾーニング』っていうんだけどさ」
「ぞーにんぐ。へー」
またもや耳慣れない言葉の登場です。
「でも今回、どうもそれがうまくできていなかったらしくてね」
「ふうん。どういう風に?」
「実はパパは……っていうかママもだと思うんだけど、そのお店には過去にいったことがあってね」
と言って、パパはその街と店の名前を一応教えてくれました。
もちろんタケシ君は初耳です。
「へー?」
「まあ、なんというか……『オタク』と呼ばれる人なら一度ぐらいは行ったことがあるお店じゃないかと思うんだけどね。画材やアニメグッズなんかもたくさん置いている店だから。とはいっても、ほかのいろんなお店が入っている総合商業施設だから、ふつうに子どもづれの家族づれなんかも入店してくる場所なんだけど」
「うんうん」
「一応、スペースは区切ってあったようなんだけど、大きなパネルで仕切りを作ってはいたものの、普通にお客さんが歩く通路側から、かなり中身が見えてしまう形になっていたんだ。そこに、R15以上ではないかと思われる絵がしっかり見える状態になってしまっていた」
「え、それってまずいんじゃないの」
「そう、なんだよねえ……」
パパは考え込むように腕を組みました。
タケシ君は、そこからの質問をちょっとためらいました。でも、やっぱり聞かずにはいられませんでした。
「で? それってどんな絵だったの」
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