第2話 タケシ君の疑問 その2
「さてと。なにから話せばいいかなあ……」
いま、ふたりは夕食とお風呂のタスクを順調にこなし、パジャマ姿になってリビングのソファに座っています。目の前のローテーブルには、パパのためのコーヒーとタケシ君のためのオレンジジュースが置かれています。
「どこからでもいいよ。ぼくにわかる話だけでもいいからさ」
「うーん、そうだね。じゃあ、さっきタケシが言ってた『鬼○の刃 無限列車編』のPG12からにしようかな」
「うん」
「ネットで調べてみればすぐわかるけどね。ちょうどいいから、ちょっといっしょに調べてみようか」
「うん!」
パパはスマホを取り出すと、ささっと検索をかけました。さすがの鮮やかさ。
タケシ君もスマホは喉から手が出るほど欲しいのですが、まだママが許してくれないのです。
頑固もののママは「早くても高校生からよ」と言って聞かないのですが、タケシ君としては中学生になったらすぐにでも買って欲しいというのが本音です。
「さあ、これだ。まず『PG12』。これは『12歳未満の方は、保護者の助言・指導が必要です』という意味だとあるね。つまり、おおむね小学生以下の子どもはそうしてほしいってことになるかな」
「あ、ほんとだ」
「それから、こうもある。『鑑賞する際には、なるべく保護者同伴をおすすめします』。『PG』は『
「ああ、そうだね」
「ということは、親でもおじいちゃんおばあちゃんでもその他の人でも、とにかく大人の保護者がそばにいて、なにか助言をしながら見せてください、ってことになるよね?」
「ええ~」
タケシ君は抗議の声をあげました。つまり反対意見です。
「でも、あれってもとは少年マンガじゃないの? 少年マンガってことは、もっと小さな子どもだってみんな読めるマンガってことでしょ。なんかおかしくない?」
「そうなんだよなあ。そこがなかなか難しいところでね」
パパは「さっそく痛いところを衝かれたなあ」と言いたそうな顔で、頭のうしろをぽりぽり掻きました。
「でもまあ、映画にしろマンガにしろ、ああいう年齢制限をつけるのは製作者側がやることだしね。まあ、怖いお母さんたちから『つけるべきだ』な~んて言われてつけざるをえなくなるってこともあるようだけど」
「へー」
それはきっと、こわーいPTAのオバサンやオジサンたちのことかなあ、なんてタケシ君はぼんやりと考えました。
「で、制限をつけるとどうなるか。当然、見てくれるひとが減るよね? PG12だと子どもだけで観に行くことは難しくなる。そもそも子どもだけで映画なんて、あんまりあるわけじゃないけどね。タケシと同じ小学五年生では、できればやめておいてほしい、ということになるわけだ」
「うーん。まあ、そうだね」
確かにあの映画に行ったとき、タケシ君はパパとママに連れられて行ったのでした。
「そうなると、映画ならどうしても興行収入が減ってしまう。パパやママが忙しくて、子どもを映画につれていけないっていうご家庭だってたくさんあるわけだからね。マンガだってそうだ。買ってくれる人がいなければ、マンガを描く人もマンガを出版する人たちも、また本屋さんだって、あまりお金が入ってこなくて困ることになってしまう」
「ああ……そうか」
「それで作り手の人たちはみんな、頭を悩ませるわけだよ。たとえば『鬼○の刃』はタケシもよく知ってるように、物語の中で人がいっぱい死んだり、殺されたりするよね。人の体がズタズタに引き裂かれて血がどばっと出て、首がとんだり腕がとんだりする」
「あー、うん……」
タケシ君はちょっと決まりがわるいような気持ちになって、ソファのうえでおしりをもぞもぞさせました。
「ああいう残酷なシーンを、あまり小さな子どもには見せないほうがいい、というのが最近の世界的な流れになってる。日本はだいぶ遅ればせな感じではあるけれど、全体として確実にそういう流れになってきているわけだ」
「ふーん。そうなんだ」
「実際、日本のテレビで放送されたアニメ番組を海外で放送するときには、どばっと流れて見えていた血が消されているというのはよくあることなんだ」
「え、そうなの?」
なるほど。それは知りませんでした。
「そうだよ。今はアニメーションもほとんどがデジタルで作られているからね。問題がありそうだと思った部分だけ、なにもなかったかのように消すことができる。あるいは、見せたくない部分にだけ影をつけて真っ暗にして見えなくしてしまうとか、モザイクをかけるとかね」
「ふーん」
「モザイク」というのがなんだかよくわかりませんが、とにかくもとの絵が見えないようにする技術のことのようです。それはあとでまた詳しく聞くことにして、タケシ君はパパの顔を真剣な顔で見つめました。
「それでね。話をもとにもどすけど、『PG12』は小学生以下の子どもが見るとき、『これはお話だよ、フィクションだよ、だから真似をしてお友達におもちゃの刀で殴り掛かったりしちゃいけないんだよ』みたいなことを教えてくれる大人がそばにいてね、って意味になるわけだ。ちいさな子ほど、つくり話とリアルの区別がつきにくいものだから」
「え、どういうこと?」
「たとえば、そうだなあ……」
パパはちょっと顎に手をあてて考えました。
「そうそう、『千と○尋の神隠し』ってあったよね、ジ○リのアニメ映画の」
「ああ、うん。あれぼく大好き!」
「そうだったね。でもタケシ、君が3歳のころ、あれをみて部屋の外に逃げていったの、憶えてないかなあ」
「え~? そんなの、おぼえてないよ……」
今度はタケシ君が困った顔になりました。
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