ネタバレ絶許マシーン

結騎 了

#365日ショートショート 006

「完成じゃ!名づけて、ネタバレ絶許マシーン!」

「やりましたね博士!」

 ここは寂れた研究室。業界の異端児・根田ねた博士は、十数年の歳月を費やした渾身のマシーンをついに完成させた。

「博士、早速こいつを稼働させましょう」

芭令ばれくん、そう焦るでない。私の助手を何年やっておるのだ。もう少し慎重に、まずは動作確認をしなくては」

 しかし、根田博士自身もはやる気持ちを抑えきれないらしく、手が小刻みに震えている。

「このネタバレ絶許マシーンは、SNSでネタバレ投稿をしたユーザーを、文字通り絶対に許さない。そう、亡き者にしてしまうのだ。こいつは自身の体を次世代ナノマシンに分解、自由に再構築することができる。ネット回線を通じて昼夜を問わず移動し、スマホの画面から突然に実体となって飛び出してくるんじゃ!」

「相当な恐怖ですよね。ツイッピピーにネタバレの投稿をしたら、突然スマホから単眼の鎌を持ったロボットが現れて、襲いかかってくるんですから」

「そうじゃ!ネタバレは絶対に許してはいかんのじゃ!ネタバレ投稿をした者は、その場ですぐに死あるのみじゃ!」

「我々もツイッピピーをやっていますが、本当に生き辛くなりましたね。待ちに待ったアニメの放送日、ミステリ小説の発売日、映画の公開日。なぜこうも怯えながら過ごさなくてはならないのか」

「そんな日々とも、もうおさらばじゃ!このネタバレ絶許マシーンは、AIを搭載しておる。ツイッピピーのユーザー数3,000万人の『ネタバレの基準』を自動で機械学習し、常に進化し続ける。ネタバレに寛容な人から、繊細な人まで、その全ての需要を満たす!どんな些細なネタバレも、絶対に許さないんじゃ!」

「しかし、いきなり無から殺人マシーンが現れて人を殺したら、大変なことになりませんか」

「大丈夫じゃ、ここを見なさい」

 根田博士は、マシーンの胸部を力強く叩いた。鎌の根本付近、単眼が備わった頭部の下に、シュレッダーの口のような溝がある。

「ここから、ファックスのように印字された罪状が出てくる。殺されたユーザーがどんな投稿でネタバレをしたのか、どうして処刑されたのか、それが死体に添えられるのじゃ。その様子はたちまち報道され、全世界がネタバレ絶許マシーンの恐怖に怯えることになる。それでこそ、理想の世界の完成なのじゃ!」

「騒ぎになることまで計算ずくとは!さすがです博士!」

 芭令助手の拍手が研究室に響きわたる。

「よし、早速動かしてみるぞ。まずは近隣のデバイスから順にパトロールを始めるじゃろう。手始めはこの街から。ネタバレ絶許マシーンが快適なSNSをもたらすのじゃ!」

「いきますよ博士!スイッチ、オン!」

 ゔいいぃぃぃぃぃぃん。低い唸り声のような音を立て、マシーンはその本体を発光させた。やがて、まるで霧のように散り散りになる。次世代ナノマシンと化したそれは、根田博士のパソコンに吸い込まれるように、インターネットに旅立っていった。

「いけ!殺せ!ネタバレを絶対に許すな!」

 そう豪語する芭令助手の上着のポケットが、途端に光った。刹那、まるでランプの精のように、ポケットの中のスマホからネタバレ絶許マシーンが実体化する。「どうして」、という芭令助手の声が最後まで聞こえることはなかった。一閃。その鋭い鎌は頭から股までをさっくりと割く。研究室に盛大に飛び散る血。マシーンがスマホに戻っていく様子を、根田博士は青ざめた表情で見つめていた。なぜだ。あまりのことに身動きが取れない。しかし、ゆっくりと考える暇はなかった。間髪入れず、机上の根田博士のスマホが光りはじめたのだ。

 ものの数分後、そこには見るも無残な死体がふたつ転がっていた。返り血で真っ赤に染まったネタバレ絶許マシーンは、機械音声で喋りはじめる。「罪状、を、印刷、します」。が、が、が、が。胸部から出力が開始される。二枚の紙がひらりと落ちると、そのボディはすぐさま発光。インターネットの海に吸い込まれていった。




◆ 処刑ナンバー 001 根田太郎


令和3年11月26日23時31分。以下の投稿をツイッピピーに行う。


@netagenius 『魔法少年ゴリパ』の最終回を見たぞ。まさかリリオにあんなことが起こるなんて、予想外じゃった!


※リリオというキャラクターに何かしらの展開が訪れることが未視聴の者に察せられてしまうため、ネタバレに該当。死をもって償うべし。




◆ 処刑ナンバー 002 芭令龍之介


令和4年1月7日11時29分。以下の投稿をツイッピピーに行う。


@bareR012 映画『マンティースマン:ノー・カット・エニモアー』を観た!興奮も興奮。思わず泣いてしまった。ん~、なんにも言えねぇ!気になる人は早く劇場へ!


※具体的な感想を避けていることから、驚きの展開があることが察せられる。未視聴の者の期待を不必要に煽り、サプライズが存在すること自体を伝えているため、ネタバレに該当。死をもって償うべし。

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