第6話
お昼ご飯もなんとか食べ終わり、午後の授業も特に頑張るような教科でもなかったのでいつも通り適当に聞いているふりをしてやり過ごす。
一番後ろの席だからわかるが、やはり午後の授業となると寝ている人も少数ではなくなる。いつもなら僕もその一員となるのだが、なぜか今日は全く眠くなかった。
理由はわかっている。
僕だって男子だ。そりゃ神崎さんみたいなS級の先輩と今日も会えるとなると、多少は楽しみにしてしまうのも仕方ないだろう・・・。
「お疲れいー」
「あー、お疲れー」
授業が終わるといつもどり廉が僕の机に寄りかかってくる。
「環、今日カフェにいるー?」
「いないけど・・・、いや、バイトあっても言わないけどな?お前茶化しにくるし。友達とそのへんとカラオケでも行ったらいいだろ」
僕は3ヶ月ほど前から学校と少し離れたところにあるカフェでバイトをしている。同じ高校の人が来たりしたらたまったもんではないから、あえて少し離れたとこにしたのに、廉は初めて三日目で来たのだ。
それからもこうして暇な時は僕のシフトに合わせて茶化しにくるというわけだ。
「人聞き悪いなー、ちょっと環の制服姿撮ってるだけだろ?」
「それを茶化してるって言わなかったら何を茶化してるっていうんだよ」
「そんな怒んなってー。でもまあ環がいないなら行っても意味ないしな、今日は家に帰ってゲームかな。あ、たまにはカラオケでも行っちゃう?」
「いかねーよ」
「うん、知ってた」
そんな廉とのいつもの絡みを済ませる。
廉は外面は一軍だが、実際のところは僕に引けを取らないくらいのゲーマーである。
基本的にいつも周りから遊びを誘われても断っており、僕を茶化しにくる時以外は家に帰ってゲームをしているというわけだ。
正直いって、放課後に遊びに行くこともないのに周りとの良い関係を保ち、同時にかなりゲームオタクという面を両立しているのはかなりすごいことだと思う。少なくとも僕にはそれができないから友達も少ないわけで。
「ほんじゃ、俺は帰るわ。夜ゲームするならLINEしてくれ」
「りょーかい」
『廉くんカラオケ行こー』
『ごめん、今日は予定があるんだよね。また今度誘って』
『そっかー残念、じゃ、また明日も誘うねー』
『考えとくよ・・・はは・・・』
どうやら一軍は一軍でいろいろと大変らしい・・・
———————————————————————————————————
どうしてこうなったのだろう————静かな放課後の図書室で僕は考える。
現在の状況はこうだ。手にはアニメを映し出しているスマホ、右耳にはイヤホン。そして・・・隣には楽しそうにスマホの画面を見つめる神崎さん。
そう、今僕は誰もいない放課後の図書室で神崎さんと片耳ずつイヤホンをつけ、アニメを見ている。
※数分前・・・
チャリン——。
「あ、いたいた。環おつかれー」
そう言って図書室に入ってきたのはもちろん黒髪ショートの先輩。神崎さんだ。
「ども」
たしかにくるとは言っていたが、よくよく考えてみると何をしにくるのか全くわからない。もしかしたら、また荷物もちとして本屋にでも連れて行かれるのだろうか。
「よいしょっと」
そんな僕の思いとは裏腹に、神崎さんはさも当たり前かのように僕の隣に座ってくる。いや、図書室で会う約束しているのに距離をあけて座るのも不自然だが、隣はやはり少し緊張してしまう。
「で、今日も僕に何か用があるんですか?」
「いや、ないけど?私は漫画読んでるから環はライトノベルの方がんばって!」
それだけ言って当の本人はリュックからお昼にも出していた大量の漫画を取り出し始めた。
・・・全く意味がわからない。神崎さんは何をしに図書室に来たのだろう。夜遅くまで原稿を書いていると昨日も言っていたので、帰って作業に取り掛かった方がいいと思うのだが。
「あ、その漫画・・・」
「え!知ってるの?」
お昼の時は頭の中が早く教室を出たいで埋め尽くされていたため気が付かなかったが、神崎さんが持ってきた作品は僕も知っていた。アニメが今期から始まっており、僕もしっかり見ている。
「それって今期のアニメでやってるやつですよね・・・。面白いんで僕も見てるんですよ」
「え、嘘、私チェックし忘れてる・・・」
「僕漫画は見てないですけど、結構作画や声優もいいですし、かなり面白いですよ」
「じゃあ、はいっ」
「え・・・、これって・・・」
渡されたのは右耳用のイヤホンであるわけだが、はたして僕にこれをどうしろっていうのだろう。
一つの選択肢は思い浮かんでいるのだが、僕の陰キャ思考がさすがにそれはないだろうと叫んでいる。
「ん、せっかくだし一緒に見よ?」
「ち、ちなみに拒否権は・・・」
「ないよ?」
どうやら今回も拒否権はなかったようです———。
どうやら漫画家の先輩に気に入られてしまったみたいです。 だみん @rate-3016
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