第41話 これからも
放課後。
昼休みの出来事は学校中に広まったようで、クラスのみんなが香澄をチラチラと見ていた。
「香澄、大丈夫?」
香澄はずっと恥ずかしそうに身を縮めていたので、話しかけに行った。
「だ、大丈夫よ、これくらい、ええ。誠也もずっとこんな視線を浴びてきたんでしょ?」
「うーん、そうかもしれないけど」
確かに俺も中学高校と上がった時は俺と香澄のことを知らない人に、めちゃくちゃ視線を向けられていた。
だけどそれは仕方ないことだし、もう慣れたものだった。
香澄もある意味、俺と同じような視線を浴びていたと思うのだが、今回の視線を受ける理由などはとても恥ずかしいようだ。
「多分、すぐ慣れるわよ、ええ。だって毎日これから、その、告白するんだから」
「そ、そう?」
「じゃあ一緒に帰りましょう、誠也」
香澄は早く視線から逃れたいのか、そう言って教室を出ていった。
俺は本当に香澄が毎日告白をする気があると聞いて、ドキッとしながら後を追った。
学校の帰り道、生徒がいなくなってようやく一息ついた香澄。
しかし俺と香澄の間にそこまで会話はない。
前のデートの最後といい、今日といい、衝撃的なことが起こりすぎている。
黙って歩き続け、香澄の家の前に着いた。
「送ってくれてありがとう」
「うん、じゃあ俺は……」
「待って、誠也。まだ私、今日、しっかり告白出来てないから」
「えっ?」
食堂であんな大声で言われたけど?
そう思ったのだが、香澄は深呼吸をして準備をしていた。
「ふぅ……やっぱり、緊張するわね。よく十年間も続けたわね、誠也は」
「まあ、慣れって言っちゃダメかもだけど、慣れだよ。本気の本気、全力で言ったのは、前のデートの時だったかも」
「そう。じゃあ私もまず最初は、本気の本気、全力で言うわ」
香澄は真っ直ぐと俺の目を見て、緊張した身体を震わせないようにするためか、拳を握りしめてから、告げる。
「私、今市香澄は、三条誠也が大好きよ」
「……うん」
「誠也、結婚しましょう」
香澄の言葉に、俺の心臓がドクンっと跳ねた。
ああ、なんて嬉しい言葉だ、とても幸せだ。
今すぐ結婚したい、香澄と幸せな家庭を築いて、一生一緒にいたい。
だけど俺が、ここで言うべきなのは……。
「むり」
「……」
「だって俺、十八歳になってないし」
「……ふふっ」
「だから十八歳になったら、もう一回告白してね、香澄」
俺が笑みを浮かべてそう言うと、香澄も綺麗な笑みを咲かせて。
「ええ、もちろん。十八歳になるまで、毎日してあげるわ」
「あはは、これからは毎日が楽しすぎて、幸せすぎるかもな」
だけどこのままだと、俺は十年間も香澄に告白をしないままなのか?
……それはなんか、嫌だな。
「香澄」
「ん? なに?」
「俺は香澄のこと――愛してるよ」
「っ……!?」
香澄が顔を真っ赤にしたのを見て、俺も少し頬が赤くなるのを感じる。
大好きよりも上の言葉は、これしかないと思ったけど。
やっぱり言うのは少し恥ずかしいな。
「せ、誠也、あんたね……私が誠也がしてくれた十年分を返すって言ってるのに、なんで誠也が告白するのよ」
「別にしちゃいけないって言われてないし、お互いにし続ければいいんじゃない?」
「それじゃあ私がずっと返し切れないじゃない」
「じゃあ香澄が俺より毎日二倍の数だけ言えば解決だね」
「……それ、誠也が言うだけ、私の言う分が増えるってことよね」
「あはは、そうだね」
「笑い事じゃないでしょ……」
香澄は頭を抱えるようにそう言ったが、笑みを浮かべていた。
「ほら、今俺が一回言っちゃったから、お返しに言ってみて」
「くっ……はぁ、わかったわ」
香澄はまた少し頬を赤くしながらも、俺の目を真っ直ぐ見て言ってくれる。
「誠也、私も……その、愛してるわ」
「っ……嬉しい! 香澄、大好きだぁ!」
「なっ!? だから誠也、勢いで言うのはやめなさい! 私も言う数が増えるでしょ!」
「ごめん! だけど我慢出来なくて!」
「ったく……! わ、私も大好きよ!」
「くっ……幸せすぎて辛い……!」
俺と香澄はそんなことを言い合いながら、笑い合っていた。
小学校一年生の頃に一目惚れして、告白して、フラれ続けた。
だけど今、こうして好き合って、十八歳になったら結婚することになった。
本当に幸せだ。
香澄を、好きになってよかった。
「香澄、結婚しよう!」
「むりって言ってるでしょ!? あとだからなんであんたがプロポーズしてるのよ!?」
十八歳になって結婚してからも、ずっと俺は愛を伝え続けるだろう。
――――――――――――
本編、完結です。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
「結婚しよう」「むり」を繰り返していた幼馴染に、1日だけ求婚しなかったら心配して甘えてきた shiryu @nissyhiro
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