外伝3 アンナのルームメイト【後編】
そしてローラたちはアンナの部屋に帰ってきた。
「……もうラーメンを食べ終わったでござるか? 随分で早いでござるな?」
天井裏からシノブの恨めしそうな声がする。
「えへへー。ラーメンはこれからですよ」
「……どういうことでござるか?」
シノブが不思議そうに呟いたとき、部屋の扉がノックされた。
「ラン亭アルよ。ラーメンの出前を持ってきたでアル!」
「待ってました!」
ローラは扉を開ける。
そこにはランとニーナがいた。
二人が担いできた岡持ちの中には、七人と一匹分のラーメンが入っていた。
「おや? 注文したより数が多いですね?」
ローラは事前に打ち合わせしたとおりの台詞を言う。
「せっかくなので、私とニーナちゃんもここで夕飯を食べていくことにしたアル」
「そういうことだから……よ、よろしく」
ランは朗らかに。ニーナは少し緊張した様子で台詞を言う。
「大歓迎ですわぁ。でも、それにしても一人分多い気がしますわよ?」
「あ。作りすぎてしまったアル。誰か食べてくれる人はいないアルか?」
ランは左右をキョロキョロ。わざとらしく天井もキョロキョロ。
「ま、一人分くらいなら、みんなで協力すれば食べられるであります。伸びないうちに食べちゃでありますよ」
「それもそうアル」
岡持ちからラーメンどんぶりを取り出し、床に並べる。
ちょっと汚いが大きな机がないので仕方ない。
全員で床に座り、どんぶりを持って、スープの香りを嗅ぐ。
「いい香り……」
アンナが恍惚とした声を出す。
それは演技ではなく、どう聞いても本心からの呟きだった。
だからこそ効いたのだろう。
天井裏からドタバタとのたうち回る音がする。
「食べたいでござる! 拙者もラーメンを食べたいでござるぅぅ!」
そして天板が外れ、人間が一人落ちてきた。
かなり背の高い女性だった。
大人のエミリアやランなどと比べても長身だ。ほとんど成人男性と変わらない。
だが着ているのはギルドレア冒険者学園の制服。
顔立ちもアンナやシャーロットと同年代に見える。
「ああ……つ、つい出てしまったでござる! ラーメン食べたさに……見ないで欲しいでござる!」
彼女は部屋の隅で小さくなり、手で顔を隠した。
しかし、チラリと見えた顔立ちは、かなり整っていた。それに艶やかな黒い髪も美しい。
「なんでそんなに隠すんですか? せっかく可愛いのに……」
ローラは素直な疑問を口にする。
「か、可愛いでござる!? 皮肉はやめて欲しいでござる! 可愛いというのはローラ殿のような人をいうでござる! 拙者のように背の高い女は可愛くないでござる!」
「なるほど……背の高さがコンプレックスだったんですね……」
ニンジャだ何だと理由をつけていたが、結局のところ、女の子らしい悩みから出発した騒ぎだったのだ。
「シノブさんは可愛い顔ですって。そして背が高いのは羨ましいです! 私に分けて欲しいくらいです!」
「分かる……私も身長、欲しいわ……!」
ローラとニーナは、すらりとしたシノブの長身を羨ましげに凝視する。
「そうですわ。ローラさんとニーナさんに身長を分けるのはいけませんが、シノブさんはお可愛らしいですわ!」
「うん。初めて顔を見たけど、まさかそんな美人だとは思わなかった。背が高いのは恥ずかしいことじゃないよ。格好いい。ローラとニーナに同意。分けて欲しい」
「平均よりは背が高いアルが、そんな不自然なほどじゃないアル。むしろクールで素敵アルよ」
「そうであります! それに身長の話をしたら、この国の女王のほうが大変であります。女王はすっかり大人なのに、ロラえもん殿よりも小さいでありますよ」
「え!? 大人なのにローラ殿より小さい人がいるでござるか……? 確かに、それに比べたらマシかもしれないでござる……」
シノブは少し元気になったらしい。
女王陛下が小さいのは大賢者が魔法で若返らせたからであり、本当はそんなに小さいわけはないのだが、シノブのために黙っていることにしよう。
「拙者、本当に可愛いでござるか? あとでデカ女とか馬鹿にしないでござるか……?」
シノブは恐る恐るという様子で顔から手のひらをどかす。
改めて見た彼女の顔は、やはり可愛かった。
「言いませんよ。そんな酷いことを言う人はこの学園にいません。仮にいても、私たちがお仕置きします!」
「そうですわ。パジャレンジャーの出番ですわ」
「カミブクロンの生贄にするのもいい……」
ローラたち三人はシノブに近寄り、手をギュッと握った。
するとシノブは涙をにじませる。
「あ、ありがとうでござる……昔、近所の男の子にデカ女と馬鹿にされて以来、コンプレックスだったでござる……格好いいとか可愛いなんて、初めて言われたでござる!」
「あはは。その男の子はきっと、シノブさんが可愛すぎて、照れてたんですよ。自信を持ってください。シノブさんは可愛くて格好いいです。私たちが保証します! ハクもそう思いますよね?」
「ぴ? ぴー!」
ベッドの上でくつろいでいたハクは、翼をバサッと広げて肯定するような声を出した。
神獣のお墨付きである。
これに反対する奴にはバチが当たるというものだ。
「仲良くなったところで、早くラーメンを食べるアル。伸びちゃうアルよ」
こうしてシノブとローラたちは友達になった。
一緒に食べたラーメンは、すでに伸び始めていたが、それでもみんなで食べると美味しいのだ。
剣士を目指して入学したのに魔法適性9999なんですけど!? 年中麦茶太郎 @mugityatarou
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