他者と混ざれない『境界』を巡る、孤独と執着の物語

 すごい作品と出会えてしまったな、と感動させられました。
 何と言っても、中心にあるテーマの扱い方がとても巧いのです。

 主人公は社会に馴染むことができず、自己肯定感を満たすことの出来ないまま鬱屈とした日々を送っている。
 そんな主人公が、ある時から『キメラ』というものに強い関心を持つようになります。動物と動物を融合させ、新しい別のものを作り出す。心の中でイメージを繰り広げ、スケッチブックに想像した姿を描き出して行きす。


 これは『個』と『個』を形成する『境界』を破壊し、周囲に溶け込めない自分の孤独を消し去りたいという願望の表れでもあります。

 このような『個としての境界』を破壊したいというテーマというと、『新世紀エヴァンゲリオン』や諸星大二郎の『生物都市』などに通ずるものでもあります。現代的かつ普遍的、そして深遠なこのテーマが『キメラへの執着』という形で描かれ、主人公の孤独感がひしひしと伝わることになります。

 
 文学的な風格があり、エンタメとしてのホラーでは終わらない、強いテーマ性を持った作品でした。
 『キメラ』というモチーフを通して描かれる、現代的な孤独と葛藤。全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って、境界を破壊したいという願望。

 主人公が最終的に迎える結末も、『ユメ』という存在の人智を超えた感覚と特性を持って、思わぬ地平へと行きつくことになります。
 その感覚もまたある種の象徴的な感覚を持ち、しみじみじと考えさせられるようなテーマ性を持つものでした。


 象徴を利用し、一個のテーマや心情を描き出す感覚。とてもカッコいい小説だな、と思いました。
 紛れもない傑作です。