俺がオナホでオナホが俺で

風呂太郎

 取り敢えず捨てとけ、話しはそれからだ

「私はオナホの精だ」

俺の口からそんな言葉が出て来るとは、30年生きてきてまさか思いもしなかった。


いや、正解に言えば俺の体を乗っ取ったヤツの言葉だが。


オレは俺を見上げている


どういうこと?

じゃあオレは今、何だっていうんだ?


これは……あぁ、まさかとは思った

しかし最悪の予想はその通りだった


オレは電動オナホに乗り移ってしまっていた。

「「入れ替わってるー!?」」

息ピッタリ!


イヤイヤイヤイヤ!そうじゃない!


「フザケンナ!」

オナホのボイス機能から流れる女性チックではあるがどこか平坦で機械的な音声が流れる。


メーカーが苦心して開発、かくして搭載されたそのボイス機能は、やはりユーザーからは不人気であった。


『演技で感じてる振りされてるみたいで萎える』

『オナホから声が聞こえても何ら興奮しない』

『自分が言って欲しい台詞を自分で登録する時に絶望を感じました。ありがとうございました』

等々


今の俺は、意思を伝える手段となったこの機能に、ちょっとだけ救われた気がした。


オレ、ポジティブが過ぎるんじゃなかろうか。


しかしながら、もうちょっと頑張れよ開発陣!声が平坦なんだよ!

でも、中の感触は悪くないぜ?


あぁ、駄目だ。頭が混乱している。

興奮し感情が昂ぶった俺はついには身体が震えだした。


『ヴィィィィン ヴィィィィン ……』

高速かつ周期的に。


って、コレバイブ機能じゃねーか!


怒りと同時に何かを噴出させる。


『シュコー シュコー』

そう、バキューム機能のエアーだった。

吸ったら吐く。当然の摂理である。


「落ち着きなさい、オナニストよ」

誰がオナニストじゃボケ!いや、年季が入ったオナニストだったわ。オレ。


「ナニガドウナッテル……」


「このナニはいつもと変わらずだが、少し元気が無いようだな」

俺?の身体が股間をまさぐってるけどそっちのナニじゃない。天然か!


「ドウスレバ、モトニモドレル」

こんなの夢であって欲しい!

女性用バイブとかディルドならまだしも、よりによって電動オナホとは。

そういえば最近、電動コケシって言わなくなったよな。

バイブとかローターとか電マとか種類も豊富である。


まさか、入れる側から入れられる側になるとは誰が想像できたであろうか。


まぁ、案外入れられて喜ぶ人間も少なからずいるのだけれども……


俺はオナニストではあるが、断じてアナニストではない。


通販サイトが頻繁に俺への"お薦め"として電動ア○ルプラグを推してくるが、頑なに拒み続けている。


多分、乳首用バイブを購入したのが原因かと思われる。


そんなことはさておき、今重要なのは、何故オナホの精と俺が入れ替わらなければならなかったのか。

そして、どうすれば元に戻れるのか。である。


「アクムナラ、ハヤク、サメテクレ……」


「そう悲観することはないヒトの子よ。その歳まで貞操を守り、雨の日も風の日も、病める時も健やかなる時も、かかさずオナり続けたであろう?ソナタは精霊使いになったのだ」

そんな事言うな!恥ずかしいわ!


「カッテニ、ヒトノカラダニノリウツリヤガッテ!」


「ソナタはまだ力の制御が出来なかった故の事故であろう。その内戻る、マスター・オブ・マスタベらしく、どんと構えて気長に待たれよ」


誰が気長に待っていられますかってんだ!

こちとら、いつもハイパワー即イキモードでマスかいてんだ!せっかち早漏舐めんなってんだ!

つーか、勝手に変な称号つけんじゃねーよ!



混乱する頭、カオスな状況に更なる追い討ちをかけるように自室のドアがノックされた。


「正貴ー!入るわよー?」

「マッテ!イマチョット、チョッ!マテヨ!」


ガチャリと開くドアに気を失いそうになる。


「あっ、アンタ……」

「うむ、苦しゅうない。姉君、遠慮なく入られよ」

驚愕する姉貴を部屋に招こうとする、下半身丸出しの俺。

「ホレ、遠慮いたすな。我はヒトの女体に興味がある故、ちょうど良いところであった。さ、近う」


下半身ズル剥けで、「近う」と恥垢かけてんのか?

ちょっと上手いじゃねーか。


って、言ってる場合じゃない。


姉貴の視線は俺(オナホの精)からオレ(電動オナホ)へと移る。


「ナーンチャッテ!ハハハハ!」

渾身の誤魔化し笑いをする電動オナホのオレ。


ドアをそっと閉じる姉貴。


「ママー!オジちゃんいるー?」

遠くで姪っ子の声が聞こえる。


「オジちゃんはもう居ないよ?オジちゃんの事はもう忘れなさい」

ドア越しに無情な会話が聞こえてきた。

俺の大好きな姪っ子になんて事を言うんだ!

しかし、今の状況を愛する姪っ子に見られるのは避けたい。


『ヴィィィィン ヴィィィィン』

姪っ子に、会いたくて、会いたくて、震える。

言うてる場合じゃないんだが?



今日は俺の誕生日だった。

それを祝う為に姉貴が姪っ子と一緒に実家に帰って来たのだ。

俺は晴れて30の大台に乗った。


これはもしかしてだけど、30歳を超えてDTの俺は、魔法使いではなく精霊使いになったって事?

レアジョブじゃん!

コレ、ワンチャンあるかもね!


あるか?ないな。


駄目だ。もう俺は恥ずか死過ぎて意識が遠くなっていった。





「ちょっと!正貴!起きなさい!アンタ、またそんな格好で寝て!」


ハッと飛び起きるとカァちゃんが目の前で呆れた顔をしているた。


「せめてパンツくらい履いて、早く降りて来なさいよ」

そう言うとさっさと俺の部屋を出て、階段を降りていった。


さっきのは、夢……?



ダイニングにはいつもより少し豪華な食事と、30の形の蝋燭が刺さったケーキ。


それにしても、さっきのは嫌な夢だったぜ。


「正貴、就職先は決まったか?いやまあ、慌てる事はないが……ホラ、コレ」

向かいに座る親父が封筒を渡してきた。


「誕生日祝いだ」

中身は現金だ。


さすがにこの歳で誕生日祝いされるなんて、ちょっと恥ずかしい気もする。

無職の俺に何を贈ればいいか分からなかったのだろう。親父は無難に現金をくれた。


「そう言えば、さっきまでお姉ちゃんとユウちゃんが来てたのよ?アンタが寝てる時だけど」

母親の発言に少し動揺してしまった。


「そ、そう……それで?」


「アンタを呼びに行かせたんだけど、『急な用事ができた』って帰っちゃったわ」


……マジで?夢じゃなかった?


『勿論、夢ではないぞ。我らが王、キング・オブ・センズラーよ』

頭に直接語り掛けてくるオナホの精。そこまで言われるともう、段々と誇らしくなってきた。


『ソナタの貞操が守られる限り、ソナタは我等オナホの精霊達の王である』


なるほど、"王"か。


「親父、ありがとう。俺もちょっと用があるから出かけて来るよ」


台所でカァちゃんが「アンタ、今から?」と、作り過ぎた料理がどうだのと文句を言ってきたが聞き流した。


そんな俺の態度と覚悟を決めた眼を見た親父が、「母さん漢には、どうしてもイカなければならない時があるんだ。正貴、イッテこい!」と、背中を押してくれる。


親父の言葉に無言で頷き

俺は親父からの誕プレの封筒を握りしめ

夜の吉原へと向かった——



「フゥ……今夜は、世界が輝いて見えるぜ」


世界に、愛と平和があらんことを




—— 完 ——

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俺がオナホでオナホが俺で 風呂太郎 @oinarikoujou

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