調子に乗ってる君が好き。

他山小石

黙ってれば天使、しゃべれば俺だけの天使

 LEDでできた光のトンネルが俺たちを包む。

 年末になるとあちこちでイルミネーションが光の街を作る。


 そしてみんなそこに集る。 家族連れ。そして恋人たち。

「暇人どもめー」

「俺らも、同じだからな?」

 今日も真理ちゃんは調子に乗ってる。幼馴染だったが、高校二年生の春から、お付き合いが始まった。

 関係が変わると、今まで意識してなかった部分が気になる。いつも調子にのって、騒ぐ元気な彼女。

「うーん、屋台とかないかな?」

「例えば?」

 歩きながら、うーんと考えるそぶり。


「アイスクリーム?」

「なんでだよ、おなか壊すよ」

「気合でがんばれ」

「寒すぎるって。朝、屋根につららできてたぞ?」

 自転車通学だが、指先が寒くて辛かった。

「で、つららのお味は?」

「食べてないって」

「なんで?」

 ちらっとこちらを振り返る。まつ毛長いなぁ。じゃなくて。


「ツララを舐めるのは危険なんだよ。理由は簡単で、屋根の上には鳥の糞とか落ちてて、その溶けた成分が混じってる。汚いんだよ」

 トンネルの向こうについて立ち止まる。


「ふんふん?」

「ふん?」

 リズミカルに、とても楽しそうに。

「ふんねえ? デート中にフン? 君は、もう……」

 やれやれとばかりに大げさに首を振り。わざとらしくため息までついて。

 今日も調子に乗っている。昔からそうだった。羽も生えてないのに、どこにいても羽を伸ばせる女。

「雰囲気考えなさいよ」

 彼女は笑顔で振り向く。

 LEDの光を背中に受けて、きれいな茶色がかった髪に光をはらむ。

 真理ちゃんは絵本から飛び出てきたヒロインのように。

 彼女の姿はとても。

「きれいだ」

「そうでしょ」

 あっ、しまった。

「いや、そのLEDが」

「ふーん、照れるんだね。かわいい奴め」

 懐に飛び込まれた。ボクシングの試合なら中止されるところだ。

「大きくなったなぁ、大悟。はぁ、風よけにちょうどいいね」

 俺に包まれたまま振り返り、光のトンネルを見つめる真理。

「一緒に見れてよかった」

「ん? なに?」

「……いやっ! 違う! その、……、暑は夏いですなぁ」

 はははは、とわざとらしく笑う真理。

 俺はつい、調子にのってしまった。

「かわいい奴め」

 真理の踵が俺のつま先を踏み抜いた。

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調子に乗ってる君が好き。 他山小石 @tayamasan-desu

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