後編

   

 翌日。

 昼休みにスマホで『Jeder Stern』のページを確認する。

 今までの短編コンテスト同様、正午に結果が発表されていた。

 ドキドキしながら、上から順に見ていくと……。

 銅賞のところに、私の作品が掲載されていた。

「あった! よかった……」

 喜びではなく、安心感に包まれる。

 実は1週間前に、既に受賞を知らされていたからだ。


 噂によれば、一般的に小説投稿サイトのコンテストでは、受賞者には事前に結果が通知されるという。だから結果発表日までに何も連絡がない時点で、落選は確定しているそうだ。

 受賞作品の書籍化作業などは、出版社も含めてなるべく早く進めたいし、結果発表の後で応募者に辞退されても困るから、受賞の意思確認も兼ねて事前連絡が行われる、という話だが……。

 ならば『Jeder Stern』の短編コンテストのように、作家デビューとは無関係な小さいコンテストでは、そうした事前連絡はないのではないか。

 私は、そのように想像していた。

 ところが今回。

 久しぶりに『Jeder Stern』を使い始めて、小さな疑問が生じたため、運営にお問い合わせメールを送った。

「『Jeder Stern』内で他サイト掲載作品の宣伝をしても大丈夫でしょうか。その際、作品名のみに留めるべきか、あるいはURLを記載しても大丈夫でしょうか」

 という用件だったのだが、その回答メールの中で、

「ついでのような形になり申し訳ありませんが、連絡事項があります。『Jeder Stern』短編コンテスト第279回で、銅賞に選出させていただきました」

 と言われてしまったのだ!


 メールを見た瞬間、我が目を疑った。

 まさか自分が『Jeder Stern』短編コンテストで受賞できるとは思ってもみなかったからだ。

 そもそも『Jeder Stern』短編コンテストに復帰した理由が、『Jeder Stern』で評価されることは諦めてあとで別サイトで評価されればいい、というものだったのに……。そんな気持ちで応募したコンテストで受賞できるとは、なんと皮肉なことか。


 もちろん、受賞できたことは素直に嬉しかった。

 しかし、いざ受賞してみると、思っていたほどの大喜びではなかった。

 まず第一に、実際に結果発表ページを見るまでは「本当に自分が受賞できたのか?」という自信が持てなかった。特に、別件のメールで「ついで」で知らされただけなのだ。あとから「あれは間違いでした」と言われるのではないか、と心配になる。

 それに、とりあえず「受賞できた!」というのを信じるとして、ならば受賞の喜びを誰かとわかちあいたい。しかし、こういう事前連絡は他言無用なのが常識なわけで、小説投稿サイトやSNSで交流ある素人作家仲間には、間違っても言えるはずがなかった。

 そうやって自分の胸に仕舞い込んでいると、ますます「あれ? 私が受賞したのって、もしかしたら現実でなく、夢で見たのを『現実』と思い込んでいるだけでは?」と心配になってきて……。

「ああ、もう! 早く正式な結果発表、見せてくれ!」

 結果発表日の待ち遠しさは、今までの比ではなかった。結果がわからぬ一般応募者よりも、事前連絡のあった私の方が『待ち遠しさ』が強いとは、これも皮肉な話だろう。


 だからこの1週間、まさに仕事も手につかない、という有様だった。

 ああ、世の中のコンテスト受賞者は皆、このような悶々とした日々を送ってきたのだろうか。

 書籍化とは無関係な短編コンテストでもこんな感じなのだから、もしも私が作家デビュー確約の大きなコンテストで受賞したら、頭がどうにかなってしまったかもしれない。改めて、コンテストを経て作家デビューした方々を尊敬してしまう。


 とにかく、今回のことは、いざ受賞してみるまで全く想像もできないような精神状態だった。

 この1週間、何をやっても上の空で、仕事でもミスが多く、かなり神経をすり減らした気もするが……。

 これはこれで、コンテスト受賞者にしかわからない、貴重な経験だったのだろう。こういう経験は無駄にしたくないから、いつかこれを活かして、コンテスト関係の小説を書いてみたいものだ。




(「明日はコンテスト結果発表日」完)

   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明日はコンテスト結果発表日 烏川 ハル @haru_karasugawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ