後編
すぐには答えられなかった。
体感としては十数分、実際には数十秒だろうか。
それほど長い沈黙の後、ようやく僕は口を開く。
「……じゃあ悪いニュースから」
「水瀬ちゃんは来ません。唐川くんの態度を見て、恋の告白だろうって察したからね。『好きな人がいるから付き合えません』って言ってたよ」
「えっ……!」
僕は絶句するしかなかった。
まさか告白する前からフラれてしまうとは! 告白すらさせてもらえないとは!
膝から崩れ落ちそうになるほどの衝撃だったけれど、
「危ないよ、唐川くん!」
澤田さんが手を伸ばして、僕の体を支えてくれた。
うなだれたままの僕の背中を、慰めるように優しくポンポンと叩きながら、澤田さんは言葉を続ける。
「悪いニュースは済んだから、じゃあ次は良いニュースね。今日から唐川くんには、素敵なカノジョが出来ます」
「えっ……?」
意味がわからず顔を上げると、目の前の澤田さんは、はにかんだような笑みを浮かべていた。
「水瀬ちゃんはダメだったけど、だから水瀬ちゃんじゃないけど……。実は他に、唐川くんを好きな女の子がいたのです! さあ、私と付き合いましょう!」
まるで何かを歓迎するみたいなポーズで、澤田さんは大きく両手を広げるのだった。
改めて僕は、まじまじと澤田さんを凝視してしまう。
女性にしては短めで、ボーイッシュな髪型。でも明るく活発な澤田さんの雰囲気には似合っていて、素敵だと思う。
そう、確かに澤田さんは魅力的な女の子だ。
しかし……。
気持ちの整理がつかなくて、すぐにはイエスともノーとも言えなかった。
いったい僕は、どうするべきなのだろう?
(「小さなケヤキの木の下で」完)
小さなケヤキの木の下で 烏川 ハル @haru_karasugawa
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