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秋葉原のもう一つの顔、貧困の顔の尖兵たるホームレス、ヤスがラジオを聴いていた。そこに男が現れる。その手にはマックの紙袋。
「すみません。これ、貰ってくれませんか?」
「もちろん」
ヤスは温かいマックを独占すべくダンボールハウスの中に入った。
「うめぇ」
理由は分からないけど、きっと何か理由があるのだろうけど、うめぇから、何でもいいや。夢中になって一気に食べてから、ヤスは天を仰ぐ、そこにはダンボールの天蓋があり、その上には、ずっと上にはいつか空がある。
「他の誰じゃなく、俺がマックを貰ったのは、俺に運があるからだ。……最強の運が」
ヤスはその運を信じた。根拠はあの温かさで十分だった。なにせ他には何もない。失うものは命くらいのもの。ヤスはホームレスをやめようと決意する。恥を忍んで役所に行き、生活保護を受給、そして働き始めた。何度も職を変えながらプログラミングを勉強し、技術職としての道を拓いた。生活保護を脱し、堂々と街を歩く。何度目かの転職の後、ヤスは――安田は、会社のプログラムにバックドアを付けることを計画し、実行した。そこから金を引き出すことは出来ないまま、会社を辞めさせられた。
昔安田がヤスだった頃にダンボールハウスを設置していた場所には別のホームレスが住んでいた。俺はまだやれる。でも、だからって他の誰もが同じであるとは思えない。俺にはまだ誰か一人を選んでマックを渡すなんてことは出来ない。あの時の彼はどんな気持ちだったのだろう。安田が立ち止まると、彼のダンボールハウスからラジオの流れる音が聴こえた。それはあの日聴いた糞みたいな曲、すっかり懐メロになっている。でも、俺にとってはマックをくれる曲だ。安田はその音楽を振り切るように駆け出した。すぐに息が切れて、キラキラした秋葉原の中に立っていることに気付く。
「俺がいる世界はこんなに輝いているのか」
振り返れば闇は深く手招きしている。もう戻りたくない。敗因は我が強過ぎたことだ、次はそこを正して臨む。安田は今の住処に向かって歩き出す、大きく胸を張りながら。
(了)
因果は巡る 真花 @kawapsyc
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