群青の日。

ヲトブソラ

群青の日。

群青の日。


 金曜日の深夜、つまり、もう土曜日だ。がらがらと青い傘を引きずって、二車線道路の真ん中を歩いていた。傘を持っていない方の手には空いた缶ビール。まさか、自分にこんな情けない日が来るなんてな。わたしは、世界のまんなかで愛を叫びたい訳でも、得体の知れない巨大な何かと戦うために人型の決戦兵器とやらに乗せられている訳でもないのに、ずたずたのよれよれである。数時間前まで上司と取引先の相手に、強くないアルコールを無理に飲まされるという事を皮切りに、幾つかのハラスメントを受け、更に何軒か連れ回された挙句、アルコールで揺れる脳を使いこなしタクシーを取り合う役目まで仰せつかった。運転手の荷物で溢れる狭い助手席に舌打ちをされながらも乗り込み、揺れる胃の中で居心地が悪そうに熱を上げる“つっかえ”にも耐え抜いたのだ。

 しかし、仕事にアルコールという物が必要なのだろうか。仮に必要だとして、酔っ払わなければ話が出来ない相手を信じるべきなのだろうか。更に、商談には接待が必要だと仮定して、男性の支配欲や自己承認欲求を埋める為にある女性にチヤホヤされる店へ行く必要があるのだろうか。もっと言えば、そういう店に女性であるわたしが同席するという事が適切なのだろうか。もし、御社がこの国の経済活動の全てを担っていたなら、弊社一同を上げ接待をする事もいとわないだろうね。上司と取引先の相手だけで、GDPの1%に相当する酒類を消費しているならチヤホヤも必要なのかもしれないね。でも、残念な事に頭をぺこぺこしなければ商売ができないような企業価値である御社ならびに弊社であるという事を、わたしは知っているぞ。


 ………かく言うわたしも、神様が電話をしながら左手で描いたくらいの存在だなんていう事は、重々承知しているのだから何も言えない。


「なあ、猫くんよ。知ってるか?車の乗車位置で死亡率が高いのは助手席なんだぜ?」


 道の真ん中で息絶えた猫くんに話しかけても、返事など無い。まさか猫くんも車に轢かれ、硬いアスファルトの上で命が終わるなんていう想像はしていなかっただろう。わたしはどんな大人になる想像をしていたかなあ?どういう人生を歩みたかったのだろう?どんな将来を想い描いていたのかなあ?


「青かったよなあ」


 歩道に傘を投げ、ガードレールを乗り越えると、ズラリと並んだ自動販売機たちのどいつから水を買おうかと悩んだ。真夜中だというのに人間様の為だけに低く唸る作動音を聞き、一日中ご苦労さまだね、と筐体を叩いて、その功績を労ってやる。お金を入れると、ピッ、と短く返事をして一段階明るくしてくれる照明と青く光るボタンたち。どれにしようかと右から左に指でなぞっていく。


「水……………だけで、なんでこんなに種類があるんだよ?」


 自動販売機は機械なので悪態を吐かれてもへっちゃらだし、わたしが「どの水がお薦めですか?長年売ってんでしょ?ねえ?こんな事も答えられないの?」と煽り気味に問いかけても、ずっと静かにお客様のご注文を待っている。仕方がないので、大切な顧客であるわたしが厳選した、二種類の水分に何かが溶けた身体に良い水と謳っているボタンを、人差し指と中指で作るピースサインで同時に押した。チープな音を立てて回るルーレットと、ゴトン!と鈍い音を立て、受け取り口に落ちる自称・身体に良い水。取り出し口のカバーを押し込んでボトルを掴んだ時、今まで聞いた事の無い音がした。自動販売機のルーレットを表示している発光ダイオードの6桁の数字が揃い点滅していたのだ。にゃーお、という鳴き声に振り返れば、青い猫くんがルーレットの当選を祝福してくれていた。


「ありがとうっ、ありがとう!ついに、わたしはやったよ!猫くん!」


 カキッと気持ちの良い音と共に、シュッと小さな体積の大気が吸い込まれる。歩道橋の上、たまに通る車のテールランプを眺めながら、雨が何とか山に降り大地に染み込んで濾過された、自称・身体に良い水を体内に流し込む。冷たい液体が舌の上をころころと転がり、口から喉、食道を通って胃、火照った身体を冷やしていく。はあっ、と、大きくため息を吐くと、足元に置いた指で作ったピースサインには選ばれず、ルーレットに選ばれた方の自称・身体に良い水が倒れた。


「最初から当たるって言ってくれれば、わたしは悩まなかったのになあ?」


 悩み悩んで、二分の一の確率にすら見放された方まで手に入る。それはもう要らない物だというのに押し付けられる。……何とかの法則って言ったな。この世界はこうやって、誰かのお節介と要らない物、選択しなくてもいい物を選択させられ、それら全てを押し付けられて困っているというのに、利便性や、やさしさなのだと、お手本のような笑顔で言ってくるのだ。それに対して、わたしの苦笑いは通じず、また意見なども聞いてはくれない。アイデンティティまでも無視されるやさしさは素晴らしい。このクソ素晴らしき世界。全く、そもそもさ……………、銀の斧でも、金の斧でもないって言ってんの。ただ斧を返してくれればいいのだから、あんたの価値観で作り上げた善行で「あなたは正直者です」とか、まるで最初から悪人前提の上に、要らない斧を追加して押し付けるなよ。それよりもやる事あるだろ、謝れ。悪人と疑って、すみませんでした、と、首を垂れろ。


「…………なあ?猫くんよ、ちょっと聞くよ?猫くんはさ、生まれる前から猫になりたかったのかい?」


 そう猫くんに尋ねるも、足元の倒れたボトルの横で前足を舐め続けているだけだった。


わたしのゆめは、がっこうのせんせいになることですっ!


 何故か、二十年前のわたしに与えられた『わたし』の台詞を思い出した。あの頃は良かったなあ…………なんて、言葉のインフレーションを起こしている懐古なんてしない。今、存在しているわたしは、一日一日、いや、一分、一秒を選択してきた連続、その地続きの上に立っているだけだからね。全部、自分の責任だしな。歩道橋の手すりに背を預け、肘をかけて夜空を見上げた。お酒が回ってか、それとも猫くん、君といる夜は、めまいを感じるのか。なんだか不思議な気分だよ。本当に何でかな………空の高さが異様に現実感を持って感じる。空は……10キロメートルから成層圏が始まって、せいぜい雲はその高さまでしか届かないんでしょ、積乱雲だっけか。でも、旅客機の運行高度もその辺りと考えれば、重たい水にしては上出来だな。30キロメートル手前にはオゾン層、80〜100キロメートルでは流れ星とオーロラが見れる。400キロメートルにも達すれば宇宙ステーションが浮かんでいるらしい。国際航空連盟で定められた定義では100キロメートルからが宇宙空間らしいよ、案外近いよな。充分、手で届きそうだなあ。ちょっと前まで2メートルが躊躇われたのに。たった2000ミリメールだぜ?


「子どもの頃は宇宙までの距離が定められているなんて、考えもしなかったなー」


 子どもの狭い世界観で作る広い世界を想い耽って、インフレーションが起きている感傷に浸るというやつをしようと目を閉じてみる。しかし、10秒も経たず、微かな振動を作る作動音が宇宙から地上へと意識を墜落させた。バッグから取り出す片面が光る最新のかまぼこ板。そこには上司からのメッセージと彼氏からのメッセージが立て続けに入ってきていた。


 かたん、かららら、かたん、かららら、かたん…………引きずる青い傘が奏でる心地のいいリズムで歩道橋の階段を叩き、降りていく。上司からのメッセージを開き、はいはい、その件なら他言は致しませんよ、と返信アイコンをタップ。続いて、彼氏のメールアイコンをタップ、スクロール、返信アイコンをタップ、ちゃっちゃとフリック、一瞬、言葉に迷い指が止まった。着信、開く、着信、開く、返信アイコンをタップ、フリックしようとしたら、着信、着信、着信、着信、着信、着信、着信、


かしゃん。からからからかららら、かたん。


 階段を降り切った時、何かが爆発してスマートフォンを車道に投げさせた。馬鹿じゃないのか。あんな立て続けにメッセージを送ってきたら、その伝えたくて、伝えたくてしょうがない“重要なメッセージ”が読めないだろう。その馬鹿らしい行為が若者のすべてなのか?馬鹿者のすべてじゃないのか?その癖に一語一句覚えているのか確認を取られ、読み逃していたら不機嫌になるくせに、馬鹿が。


「ところで………………ここ、どこだ?」


 なんとか水がアルコールの分解を促し、冷たさが身体から熱を奪ったからか、酔いが覚めてきて、ここがどこだか分からない事に気付いた。ええと、確か………タクシーで高速に乗って郊外まで………3、40分くらい走って、取引先の阿呆を家の前で降ろした。その後は上司が運転手に伝えたマンション前まで走って………愛人だよな、あれ。その愛人(仮)のマンションの前で降りた上司と変わり、後部座席に移ろうとしたわたしを引き止め、深い意味を持つであろう「ねっ?」のひと言と見た事もない笑顔。そして、握らされたタクシー代だけではない三枚のお札は、そういう事だ。あのお金の意味を聞かずに何となく理解して受け取った時点で、わたしも上司の事を悪く言えないよな。………共犯、だよな。酷く酔っていたのに、それだけは冷静に考えられた。それから、自宅の最寄り駅に向かうように伝え、タクシーが走って、走って…………あ、そうだ。途中で酔いが回って、胃の中にいた不快が限界に達し、どこか途中で降りて駅のトイレで不快をリリースしたんだ。その後は電車…………に、何線に乗った?どこ方面に乗ったっけ?


「はあ。何やってんだ、わたし」


 色々と忘れちゃっているわたしが、傘と鞄、お釣りを受け取る事は、ちゃかり忘れていない。実害が関係してくると不利益を被らないようにしっかりしている。全く、低俗だな。わたし。誰かとの純粋無垢な愛を歌った、この世界は清らかになるべきだと歌った、親愛なるラブソングへ、こんなので良いですか?わたしの人生。

 ひとまず、この状況では埒が開かないからスマートフォンでマップと始発電車の確認、そして、ビジネスホテルを探すしかない。歩道に傘とペットボトルと鞄を置いて、ガードレールを乗り越…………ぱきゃっ!…………販売台数の多い、ごく一般的な自動車に採用されているタイヤの幅は一本約20センチ前後。一方、国道の道幅は3メートルから3.5メールが国の基準として定められている。そこから割り出される確率はどれくらいだ?たまたま、わたしの苛立ちが投げた、こんな小さなスマートフォンが罪も無い車に轢かれて罪を生み、わたしが怒りだしそうになる確率なんてのは、どれくらいなんだ?


「これじゃあ、時間も分からないよなあ」


 わたしが就職した時に祖父が腕時計をしろと口酸っぱく言っていたのを思い出した。祖父は、わたしの苛立ちから道路に投げられたスマートフォンが車に轢かれ、現在地どころか、時間すら分からなくなるという事も予見していたんだな。すげーな、じいちゃん。数学者になって、何とか理論を解いて、分かりやすい何とか理論の本の著者にでもなればよかったのに。絶対、ベストセラーになってっぜ。孫が保証する。車道の上、画面がばりばりで、ぺちゃんこになった元・スマートフォンを拾い上げた。とうとう彼は、かまぼこ板以下になってしまったのだ。なんともいえない感情に空を見上げると、車の為に掲げられた青色の案内標識が歩道橋に貼り付けてある。海まで………13キロメートルか。本当に、なんでこんな所にまで来ちゃったんだろうね、わたし。何とかが溶け出し身体に良い水が半分残ったボトルと、やさしさや有難さで押し付けられた未開封のボトル。そして、ぺちゃんこになった元・スマートフォンを鞄に入れて、青い傘を引きずり、歩き出す。横目に見える位置で青い猫くんも歩調を合わせた。


「なんだい?猫くんも来るのかい?」


 もっと、動物を引き連れていたら御伽噺の騎士団みたいになるな。さしずめ、少女騎士団ってか。………少女、という年齢はとうに過ぎているから御伽噺にもならないな。


「シンデレラ、白雪姫、人魚姫は何歳なんだろうねえ」


 こんな歳になって何時か分からない夜を、とぼとぼと歩くとは思わなかったよ。前を見ても振り返っても、等間隔に照らされた同じ道路が続いていて、道路の真ん中には今にも消えそうな掠れた線が一本。その少し上で、青色、黄色、赤色で繰り返される光が、遠く向こうまで同じ色で、同調し、繰り返し光っている。『僕の前に道はない、僕の後に道はできる』とか『この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ、危ぶめば……』とか、道を喩えに人生を説く詩は数あれど、税金がたくさん投入され、デコボコに仕上げられたアスファルトの上で人生を考えるには、わたしの頭では及ばないですな。


 人生を道に喩え説いた人たちよ。道を歩いた先に分かった、このからっぽという感情はどうしたらいいですか?どう受け止めればいいのですか?わたしの後に続く道は中途半端に整備され、掠れた中央線が引かれたデコボコのアスファルトっていうのが答えなのですか。笑えませんね。


 あまりにも感情の糸が複雑に絡み合っていて、自分でもよく分からないんだよ。激しい感情に困った果ての無感情だ。本当にどうしたらいいのか分からないから呆れてしまい、何も湧いてこない。この糸をほどいた所で、どうなるのかも分からない。でもね、心か首かは知らないけれど糸が締め付けていて苦しいんだよ。こんなに絡まった糸をほどく方法を知っている人がいるのだろうか?お坊さんの説法を聞けば分かるのかい?教会で読み上げる神の御言葉の中にありますか?本屋に平積みされたお手頃価格の人生打開の成功本に書いているの?それでもなけりゃあ、カウンセラーとの会話でみつかりますか?ああ、もしかして『Don‘t think.feel,』ですか?………もう、この糸は切っちゃった方が早いんじゃないのかしら。


 こんな思いを、わたしがするなんて!とか、現役世代だけが大変なんじゃない!とか、これだから若者が!とか、老人は黙れ!とっとと引退しろ!とか言い合っても、話し合いは始まりませんよね。そうだな………まずは、わたしの話を聞け。わたしがはなしているあいだは、おくちをとじていろ。わたしがはなしおわったら、はなしをしてもいいぞ。わたしは、おくちをとじていてやる。


「幼稚園に入る前に教えてもらったけどなー」


 こんな事が出来ない人に限って注目され、呆れて何も言い返さないだけなのに、黙り込んだから五月蝿い方が正論だったんだと受け取られる。間違っていても、呆れて言葉を返さなければ、はい、論破。それが勝者の基準らしい。そりゃ、こんなによれよれの若者を見ても、声すらかけない世の中になるわな。全く、どういう了見か。これが思いやりを掲げ、たどり着いた社会なんですね。あら、素敵。


「まあ………わたしも声、かけないしなあ」


 ねー?猫くん。

 にゃーお。


 ……まじか。この松林の向こうから潮の匂いがする。本当に海まで自分の足で来ちゃったよ。凄いな、足。一歩一歩、休みながらも歩いていけばゴールに辿り着くんだよー、って、鼻につく笑顔で言われた言葉は本当だったんだな。


じゃっ。


 固い物を間違えて噛んでしまった時のような音がしたから、足元を見た。ああ、ここででこぼこのアスファルトが終わっている。


「ここにアスファルト終わり、砂利始まる………なんつってな」


 砂利を踏む足を不思議に見ているわたしを、不思議そうに見上げる猫くんが、やれやれ、という感じで小さく鳴いて、軽い足取りで松林の奥へと軽く駆けていった。


 ────潮騒。


 微かに見える足元を追いかけて、地が終わる寸前のそこに座り、海であろう濃藍を見ていた。わたしの隣に座る猫くんも、ご自慢のヒゲを揺らして濃藍を見ている。叙事詩に“ここに地終わり、海始まる”という有名な一節があるけれど、全く上手に言ったものだなと、しみじみ思う。そこに“受け入れる”という希望を見出せばいいのか、“絶望”を知ればいいのか。それは、わたし次第ってか。ここがロカ岬だったら、今のわたしにとっては絶望なんだろうな。だけど、実際にロカ岬のあるポルトガルは大航海時代の貿易大国で、勝者だ。地が終わり、海に絶望を覚える者も、船に乗れば勝者の故郷という地がある。立場が違えば見方も変わる。本当に上手い事言ったものだ。


「わたしも漕ぎださなきゃなんないかねー?」


 夜明け前なのだろう。空が藍になっていく。ようやく、爪先の……わたしの足、そのひと足先が海に向かう絶壁なのだと見えるようになってきた。立ち上がり、潮騒激しく、波が打ち付ける岩場を覗こうとした、


ヴィーン、ヴィーン、ヴィーン、ヴィーン…………………


 ぺっちゃんこになった元・スマートフォンが微かに震え、わたしを呼び止める。お前、まだ生きていたのか!わたしのせいで無茶をさせた!すまないと思っている!と、24時間走り回る特殊な組織の人みたいに言いながら、鞄を置いた場所まで戻った。


 スマートフォンを取ろうと伸ばした手が、自分でも驚くほどに冷たくなっていて震えていたんだ。


「なんだ、なんだ。わたし、怖いんじゃん」


 怖い、なんて感情を持っているなら、崖の下で待っている期待には応えられない。ここから海に漕ぎ出す事は、今は出来ない。そう分かった時、なんだか無性に笑えてきて、ぺちゃんこになったスマートフォンのばりばりの画面に辛うじて表示された彼氏の名前に、また笑った。返信が無い事を心配するくらいなら、いちいち大量のメッセージを送ってきてまで繋ぎ止めなくてもいいように、もっと面と向かって話そうぜ。


「わたしも、不器用………だなー」


ピッ。


「もしもし」


 それから彼氏に、いくつかの伝えたい事を短く話し、アイスクリームが美味しいあの牧場までドライブをする約束をした。電話を切り、海に振り返る。海と空の色温度と明度が同じになっていて、気圏と海の境界が分からなくなっていた。気のせいかも知れないけれど、わたしを待っていたような猫くんが呼びかけてきたから、返事を、した。


「悪いね、猫くん。やっぱり、わたしァ、もうちょっとこっちで頑張るよ」


 地終わり、海始まる境目を越えて、水平線と空が溶けた向こうへと歩いていく青い猫くん。しばらく、その群青の身体を見ていると、海と空の色に身体の輪郭が重なり、溶けて、消えた。猫くんの全てを見届け終わり、ひと息大きく息を吸う。空が一気に明るくなって、海の向こうからイエローオレンジが迫り上がってくる。引きずってきた青い傘を開き、おひさまから隠れて、これでもかという程に泣き喚いてやった。子どもみたいに、おおよそ言葉になっていない声も大声で叫んでやる。何も気にすんな、今は泣け。どうせ、潮騒が掻き消してくれるし、わたしを心配して声をかける人なんていない。そして、いつか、地に落ちる大粒の涙が濾過されて、わたしの身体に良い何とか水になればいい。



「全く、青い。青い、青い、青い、あおいあおいあいおい。本当にわたしたちは青いなあっ!」


 青いまま、毎日を送っているよ。


 だから、迷えるわたしたちは、群れる。




 群青。


おわり。

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