誰かを待っている人へ

演歌の世界

もう、およしなさいよ

居酒屋の隅で飲んだくれてる

あんたに言った

女将のアタシは貧乏くじよ

それでもあんたは運がいい

アタシが居なけりゃ

あんたの恋は終わらない

引かなきゃ幕が引けないからね

ねえ

そうは思わない

ああ

そうは思わない

俺があの時もう少し…

もう少し？

俺に勇気が足りないばかりにョ

だから意気地なしョ

あんたはいつもそうじゃない？

フラれるたんびにこうしてるの

いつもいつも

逃した獲物の大きさばかり

釣れなきゃそれが何だというの

金魚もクジラも一からげにしてるから

誰も本気にゃしてくれないの

それが分かって知ってて

それでも言うか

オカミさん

男はやっぱり情けない

あんたは釣りたいの？

それとも釣られたいのかな？

アタシにすりゃそういうヒトよ

竿の一本も満足に扱えない

ド・シロウト

腰を使ってビンってね

そう

ビンって

竿のしなりに男の”意気地”を込めるのよ！

何だい？そりゃ下ネタのつもりかい？

男はへの字口調で混ぜ返す

そうともよ

男は俺の逸物も…と。

ハイ、そこまで。と、女将がくぎを刺す

おんなは冴えない男の下品なジョークにしらけちゃうの

そこまで酔っちゃえるわけ？

酔っていなけりゃ言わないジョーク

酔っているからの言えないジョーク

”冗句”って意味知ってるの？日本語の方よ

何なんですか？はぁ

ろれつの回らぬ男がほざいて

教えてチョーだい

あー全然ダメ

そういうのってアタマ悪すぎ

ノレないしハジけない

モー最悪だ

もっと言って

もっと汚して

ヤケのやんパチ

どうにでもしろ

それが余計と言ってるの

ムダに言葉を重ねてる

もっとキメられないのかしら

イイ女を前にビシッと一言

”金言の一徹”ってやつをさ

ほらほら、ホラ（嘘でもいいからさ）

「言ってみな」

女将は本気で言っている

言ってやる

男は息巻き喚いてる

「言ってやるんだよぉ」

男はそれっきり突っ伏して

寝息を立てた

最後の一言が言えないのよね

あんたってヒトは

あきれる女将は苦笑い

それだから

それだから

アタシはあんたを見放せない

あんたをアタシは見放せない

惚れちゃったら

好きにはなれない

だから嫌いになれるはずもない

女将はそっとため息で締めくくる

これを運命だとは思わない

反故にするのはいつでもできる

そう思ってやってきた

おとこの数はその証

あんたもそうした一人だよ

だからさ

だからこそ

あんたも漢（おとこ）になってみな

アタシを見返す傑物に

それまで待ってるよ

待ちくたびれても

あんたはいつもここに来る

惚れた弱みは見せないけどさ

あんたが居なけりゃ…って

言わせるつもり？

それが”冗句”というものさ

いつかアタシが教えてあげる

いつかアタシに伝えてほしい

その一言を

待ってます