初夢を二人きりで

正月の夜

帰省はしない一人きりのアパートに


アタシ一人だ

隣の部屋も反対側も故郷ふるさと

もう誰もいないのよ

もうアタシしかいないのに


何であんたは何処にいる


寂しい夜とは思わないけど

退屈極まる三が日


つまらないテレビはもう

どうしようもないから

コンビニで買い置きの惣菜を

ビールのつまみに真っ昼間


どこかに行きたいけど

家を空けたら

あいつは来ない


アタシがいないと

あいつも一人暮らし

そう思ってた

だから当然

ケータイで呼び出してみよう


電波が届かないのか

電源が落ちているかも

自分に言い聞かせ10分待ってみる

自分に言い聞かせ5分待ってみる

自分に言い聞かせ3分、1分、30秒


何で出ないんだこの野郎!

ふざけるんじゃないゾ

ゾッとする


もう誰もいないんじゃないのこの街には

この部屋にはアタシがいるんだ

どうしてそれが分からないんだ

妄想だとわかっているのに


「助けて」よ、と声が出る

遭難だ

そうなんだ

そうなんですよと

薄ら笑いでごまかして


落ち着け騒ぐなあわてるな

だったら近所に住んでる同窓生を迷惑だろうと

退屈しのぎに

片っ端から呼び出して、て?

故障してるの…アタシのケータイちゃん


ウソ嘘うそだ~

わめいてみても始まらないけど

お約束は欠かせない

冗談めかしてみてるけど

事態は深刻かもね


ネットに繋げてもパソコンじゃケータイ治せない

メールでいいじゃんって問題じゃないの

アタシはアイツといたいのよ

アイツにだけつながらないのがダメなのよ


繋がりたいのよアタシとしては

どうしても

何とかして

どうにかして

アタシは一人だ

思ってもみなかったこの気持ち

考えてもみなかったこんなこと


どうしてだろう

なぜなんだろう

居てもたまらず外に出る

いいこと考えたと雪景色に絶句

もうどこにも行けないじゃないの


くるぶしまで埋まって道路も見えない

一面の銀世界

車一台も走ってやしない

きっと交通途絶の警報が出てるはず

もうダメ

アタシは一人で取り残された

遭難者

そうなんじゃ

どうなんじゃ


家に帰って冬ごもりのクマ

正月明けまで寝正月を決め込んで

乙女チックに涙ぐむ(嘘つけ)


落ち込むアタシが戻ってみると

玄関先にあいつが待ってた

それを見て

玄関先でアタシが舞ってた

助かったよ~命の恩人


大げさ言うなと彼が言う

けど気になって来てみたら

いないからと捜してたんだ

あちこちと心配してたと嬉しいセリフ


待ちくたびれたと尋ねてみれば

アイツは寒いと愚痴こぼす

暖まりたいとアタシを急かし

部屋のおこたに突撃だ


よかったよと彼が言う

なぜと問うとこれで俺も足止めさ

今夜はここで泊めてくれ


今夜はお前と一緒にいたい


え~!?

そういう事なの?

どういう事だと思ってたの?と彼


それをアタシに言わせるつもり?

だって、だって照れちゃうの


「嬉しいじゃないのこんなこと」


言っちゃった、よ。


そういう関係だったの?

向かい合う

お互いの顔がそう言っていたよ


そりゃそうだ、とそんな顔で

わたしとカレシが並ぶ肩

暖まってみようと誘うのね


暖まってみたいとうなずいて

いいよね…お正月。













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