逢瀬の彼方の辻で待つ

 どこかで見たことがあるの


 何処で、いつ…

「誰だったかなぁ~」


 疑問が喉の奥から手を伸ばし

 あなたの背中を指差した


 見ている?

 知っているの

 わたしは名前を知っている。


 あなたは私を誰だと思う

 あなたを知ってる女はだ~れだ


 わたしを知ってる

 お前はだ~れだ


 おんなは口を閉じた

 微笑みを浮かべ

 それは満面に広がってゆく


 際限のない笑顔が途方もなく

 耳まで裂けて狐のおもて

 男の瞳は月のよう

 見開きそれは闇の中


 のぞき込んでも何にもいない

 のぞき込んだらどこかへ逝った

 何かがそこから

 出て行った


 おんなの背中が叫びをあげる

 仰向けに倒れた男が

 閉じない瞳でつぶやいた


「お前を忘れたわけじゃない」


 お前が忘れるわけはない

 お前を忘れた男の名前に

 見覚えはないか


 どちらが憑いたか

 男と女

 インチキ女と嘘つき男

 化かしあうのは魑魅魍魎


 忘れていたよと囁くは

 何処のどなたで御座います


 覚えていたよと呟くは

 惚れて捧げる約定に

 契りを交わす

 逃げるつもりか


「お前のことだ」

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