誰かを待っている人へ

真砂 郭

真夜中のアンビエント

 マホガニーを磨き上げたような琥珀の夜に


 哀感を浸み込ませる酒を含む

 のど越しの香りと匂い


 甘くてほろ苦く

 貴方の匂いを思い出す

 窓明かり越しの夜の色は


 アンビエント


 柔らかなビブラートの響く部屋

 そこは私の世界


 貴方の部屋は何処に

 誰といる誰かの仄暗い染みが


 心のどこかで煙草の煙のように天井へ

 ヤニになればあたしの心が


 澱んでゆく

 汚される

 だからやめてよ


 やめて頂戴な


 わたしの夜は更けてゆく

 貴方の世界が過ぎてゆく


 忘れ去れればよかったのに

 たまにこうして思い出し

 天上のあの

 おんなの染みを数えてる


 星の瞬くは街灯り

 ルーレットのように球は踊る

 赤と黒

 どちらに停まる


 アナタはどちらに賭けたのか

 どちらを選べばよかったか


 わたしはどちら

 赤と黒


 だったら

 もうどちらでもよかったのね

 貴方にとって賭け事は


 そんな事

 どんな事


 あんな事だと言いふらす

 酔いに任せて一夜の契りに


 何の意味があったのか

 何かの価値があったのか


 あたしはソファーの女王よ

 酔いを侍らせ

 グラスを握る一人ぼっちの王女さま


 部屋は仄暗くキャンドルの灯が

 おんなごころ


 揺れてちらつく

 あたしの未練


 グラスの酒で消せばさよなら


 これっきり


 もう電話も鳴らない夜の淵

 もうあなたが知らない

 そしてあたしの知らない


 夜の闇にともしびは

 それっきり


 おんなは目を閉じ

 それっきり

 寝息が夜に溶けてゆく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る