我死なずして滞りなく生くる
空良 明苓呼(別名めだか)
我死なずして滞りなく生くる
人間死ななくば滞りなく生きている。
あの日、同じ教室に居た者のほとんどの行方は知れない。
それは誰にでもある未来なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
高校に上がる前、友人の1人が死んだ。先生が気に入らないという理由で、学校を休んだ最中の出来事であった。喧嘩を止めに入ってのくも膜下出血。
彼は空手の黒帯だったが、ついぞ誰にも手を上げず死んだ。喧嘩っ早い自分とは大違い。小さい頃より祖父に言い含められた言葉が脳裏をよぎる。
曰く。手を出したら負け。
これに尽きる。
大学に上がってすぐ、友人の1人が死んだ。交通事故であった。ぼうっとしていたのか、ふらりと赤信号に躍り出たという。しかし警察の調べでは事故として処理された。
火葬場で俯く青年は、自分とそう変わらない年齢に見えた。上司に付き添われ、真っ赤に泣き腫らした両眼。誰も彼を責めなかった。遺族すら彼に優しく声を掛けた。彼は何も間違うことなく、青信号で進行したのだから。
それでも彼の人生に付き纏うのだろう。
我が友人が。消えることなく。
大学に入って数年。未曾有の災害に友人が巻き込まれた。彼は無事だったが、多くの者を失った。手伝いに行った先で打ちのめされた。そこに人が居たことを知らせるすずらんテープ。
彼岸花の如く揺れる赤いそれを。
真っ赤な花畑を目に焼き付けて。
その後に訪れた春。吹き荒れた嵐に学友が搔き消える。医師に、科学者に、教師に。夢を語った彼らは何処へ消えたか知れない。
きちんと調べれば分かるのかもしれない。それでも僅かばかりの募金と引き換えに報告書を受け取り、毎年彼らの無事を祈る。隣国の寒い冬を乗り越えることを。
彼らがどうなったのか。
知りたいが、知りたくもない。
今年もまた報告書が届く。その封筒から零れ落ちた写真にハッとする。そこには在りし日の風景が。学友と巡った街並みがそこにあった。
人間死ななくば滞りなく生きている。
我死なずして滞りなく生くる。
我死なずして滞りなく生くる 空良 明苓呼(別名めだか) @dashimakimedaka
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