バーチャル・レイプ
篠浦 知螺
第1話 バーチャル・レイプ
「おっ、全身の感覚チェックがあるじゃんかよ。こいつは当たりか?」
頭の天辺から足の爪先まで、くすぐられるような感覚が下りていく。
全身の感覚へ影響が及ぶのは、フルダイブVRゲームの醍醐味だが、この手のゲームに実装されているものは少ない。
視覚、聴覚、触覚、体全体でバーチャルな空間を味わうフルダイブ型VRが一般的になって五年ぐらいが経つが、今やゲームだけでなく、映画やドラマ、アニメなどのコンテンツでも主流となりつつある。
多くの分野に広がりをみせるフルダイブVRだが、アダルト分野には強い規制が掛けられてしまった。
エロコンテンツ大国の日本がやり過ぎたという話もあるが、世界的な規制強化の声に日本政府が負けたというのが実情だ。
アダルトコンテンツも無い訳ではないが、単に見る、聞くだけの3D画像でしかない。
フルダイブの醍醐味である触るが味わえないのだから、まったくの興醒めだ。
だが、世の中で規制が強化されても、違法とされるアダルトコンテンツを求める者がいなくなった訳ではない。
需要があれば、当然供給して利を得ようという者も現れるのが世の常だ。
今俺がやり始めたゲームは、いわゆる裏のアダルトゲームだ。
タイトルは『リアル・レイプ』
現実以上のリアルなレイプが体験できる……というのが売りらしいが、正直あまり期待はしていなかった。
この手の裏ゲームの多くは、感覚を体験できるのが手首から先に限定されていたり、キャラクターの胸を揉んでもゴムボールみたいな感触だったりするものが殆どだ。
いわゆる性的な快感まで得られる当たりなゲームは極々一部で、すぐに摘発対象とされて入手困難となっているものばかりだ。
裏の相場では、七桁の金額で取引されるものもあるらしい。
そうした当たりを引く確率は、高額宝くじに当選するようなものだし、俺はクソゲーのクソ加減を楽しむために裏のアダルトゲームを買ってきたのだが、今回はひょっとするとひょっとするかもしれない。
全身の感覚チェックは、俺の股間の一物にも行われた。
「これ、ちょっと期待しちゃうんですけどぉ……アバターも作ったし、次はターゲットか……勿論ゲームだから違法ロリ巨乳でしょ」
現実世界で手を出したら即逮捕となる年齢のキャラクターに、ランドセルとは不釣り合いな巨乳を設定する。
あとはシチュエーションを選択したら、ゲームスタートだ。
「おぉ、歩いてる感覚も自然だし、グラフィックも凝ってるじゃん。こりゃマジで当たりじゃねぇの? でゅふふふ……僕のハニーはどこかなぁ……」
ちなみに、アバターは脂ギッシュな中年のオッサンにしてある。
違法ロリを襲うのは、汚いオッサンがお約束だろう。
設定は仮想の田舎町で、学校帰りの小〇生を言葉巧みに廃屋に連れ込んでレイプするというものだ。
「おっ、いたいた、あれだな……でもって、廃屋が……あれか」
ターゲットは人の姿のない田舎道を廃屋の方向へと歩いている。
あとはタイミング良く声を掛けて、廃屋の中へと連れ込むだけだ。
「ねぇ、そこの君……」
「わたし? おじさん誰?」
振り向いたターゲットの胸が揺れる。
まったく、けしからんグラフィックだ……もっとやれ。
「ちょっと手を貸してほしいんだ。一緒に来てくれるかな?」
「えっ、嫌です……」
「いや、ちょっと手を貸して……って、なに防犯ブザーなんか鳴らしてんだよ!」
ランドセルに吊るされた防犯ブザーが、けたたましい警告音を響かせる。
ターゲットに駆け寄って、ブザーを引き千切って地面に叩き付けた。
「いやぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」
「うるせぇ、大人しくしろ! ぎゃーぎゃー騒ぐな!」
「痛いよぉ……やめてぇ……」
悲鳴を上げたターゲットに平手打ちを食らわせて黙らせる。
手の平に感じる頬を叩く感触が実にリアルだ。
「こいつは完全に当たりだぜ。いいか、泣き喚いたら何度でも叩くからな。痛い思いをしたくなかったら大人しくしてろ」
ガタガタと震えながら頷くターゲットからランドセルを取り上げ、抱え上げて廃屋の敷地へと足を踏み入れる。
放棄された古い農家らしく、通りから続く五十メートルほどの私道を歩くのももどかしい。
脇に抱えたターゲットから伝わってくる柔らかさと温もりが生々しく、興奮が抑えられない。
辿り着いた廃屋の玄関は施錠されていて、力任せに蹴り破って侵入した。
土間から上がった畳の部屋にターゲットを転がし、乱暴に服を引き千切る。
布地が破れる音や感触までがリアルに作り込まれていた。
「いやぁぁぁ! やめてぇぇぇ……」
「うるせぇ、黙れ!」
再び泣き喚いたターゲットに平手打ちを食らわせて黙らせる。
もう、興奮しすぎて自分が制御出来ない。
「まったくゲーム様様だぜ。現実でこんな状況になったらマジで犯罪者だ」
自分のアバターの下半身を露出させ、全裸にひん剝いたターゲットに覆いかぶさった。
「いぎゃぁぁぁ……」
「やべぇ、超当たりだ。これ神ゲーだろう」
ターゲットが苦痛に耐えかねて絶叫しても、俺は腰を振るのを止められなかった。
そのまま欲望の滾りを思う存分ターゲットに放つ。
多分、現実世界の自分も雄叫びを上げているのだろうが、一人暮らしのマンションだから誰かに見られる心配は無い。
脳髄を貫くような快感に打ち震え、緩やかに賢者タイムへの移行を味わっていると、荒々しい足音が聞こえてきた。
「貴様! 何をしている!」
「えっ、何って……うわっ!」
廃屋に踏み込んで来たのは屈強な警察官で、俺は抵抗する暇も無く取り押さえられた。
右腕を思いっ切り背中側へと捩じり上げられ、耐えがたい痛みに悲鳴を洩らした。
「痛ぇ、痛ぇ、折れる、腕が折れるって!」
「うるさい! 貴様がしでかした事に比べれば、こんなもの痛みのうちに入らん!」
フルダイブ型ゲームの場合、ダメージ判定で一定の痛みを感じる場合があるが、極度の痛みを感じないように制限が掛けられているのだが、腕の痛みはその限度を遥かに超えている気がする。
「くそっ、なんだよこれ! ログアウトだ、ログアウト……って、ボタンが無い!」
ゲームを開始した時には視界の右上に表示されていた、視線入力で動作するログアウトボタンが無くなっている。
呆然とする俺に、警官は後ろ手に手錠を掛けた。
手首に感じるリアルな金属の感触に冷や汗が流れる。
更に、引き起こされて連行される最中、廃屋の玄関に掛けられた大きな鏡に映った俺の姿は、中年のオッサンではなく現実の俺の姿だった。
「くそっ、どうなってんだよ。ログアウトさせやが……ぐふぅ」
「ジタバタするな、大人しくしろ!」
喚き散らした俺の脇腹に、警官は容赦なく拳を叩き込んで来た。
「手前ぇ、こんな事して許され……がはっ!」
「何度も同じ事を言わせるなよ」
鳩尾に一撃を食らって悶絶する俺の鼻先に、警官はゴツい拳を突き付けて来る。
ログアウトも出来ない、格闘で敵う気もしない、今更ながらにヤバい状況だという実感が涌いて来た。
パトカーに乗せられたら五分と経たずに警察署に到着し、着いたと思ったら取調室に場面転換する。
こうした辺りはゲームそのものなのだが、自由にログアウト出来ない状態では言い知れぬ気持ち悪さがある。
部屋に入った後も手錠をされたままで、取り調べを担当する警官は特殊警棒を手にしていた。
「さて、自分が何をしでかしたか分かっているな?」
「ふざけるな、レイプしたっていってもゲームの中の話じゃねぇか!」
「ゲームの中ねぇ……ログアウト出来ないなら、この世界が現実だ。それに、これがゲームの中の話だから許されると言うなら、お前のSNSアカウントで公開してみるか?」
「なっ……」
警官が特殊警棒を振ると、空中に画面が開いてレイプ動画が再生され始めた。
それは、設定した中年のオッサンではなく、リアルの俺をスキャンしたアバターがターゲットを犯している映像だった。
更に別の画面には、俺のSNSアカウントの管理画面が表示されている。
「なんで……とか思ってるのか? ゲーム機が自動アップデートのためにネットに接続されているんだ、ゲームソフトにウイルスを仕込めばハッキングなんて簡単だ」
「手前ぇ……こんな事して許されると思ってんのか?」
「その前に、この映像が許されるかアップしてみるか……」
「待てっ! なんだ、何が目的だ!」
このSNSアカウントはリアルの友人も知っているし、会社の同僚の何人かとも繋がっている。
例えバーチャルな映像だとしても、違法ソフトを使っているのは丸分かりだし、その目的が幼女のレイプでは、公開された途端に社会的に死ぬ。
「目的? そんなものは無い。ここから出たければ罪を償うんだな?」
「あぁ、そうかよ。だったら、さっさと刑務所にでも放り込めばいいだろう」
「馬鹿め、まだ自分の置かれている状況が分かっていないようだな」
「何だと、どういう意味だ?」
「この世界では、強制性交は無期懲役だぞ」
「それがどうした。無期懲役だろうと、このゲーム機には稼働制限時間があって、警告の後はゲームが強制終了されるんだよ、バーカ!」
フルダイブ型ゲーム機では、時間の経過が認識出来なくなって、健康を害するまで継続的にプレイしてしまうのを防ぐためのフェイルセーフ機構が備わっている。
「はぁ……馬鹿はお前だ。ログアウトボタンが無くなっている時点で、ゲームの機能はこちらの制御下にあることに気付いたらどうだ」
「えっ……」
「フェイルセーフは機能しない、この世界での体感時間は現実世界と一緒だ。お前は、何日目で終身刑を終えてしまうのかな? それ以前に、誰かに発見してもらえる当てはあるのか?」
「なっ……」
全身から血の気が引いていく。
俺はマンションで一人暮らしだし、会社は年末年始の休みに入っている。
無断欠勤が続いて連絡が取れず、管理会社に連絡して部屋に入って……なんて展開になったら、俺は異臭を放つ死体として発見されるだろう。
「じょ、冗談だろう……」
「終身刑は嫌か?」
「嫌に決まってる! 違法エロゲーのせいでログアウト出来ずに衰弱死とか洒落にならねぇよ」
「しかも、股間ガビガビの状態でな……ふっ」
「手前ぇ……」
目の前にいる暴力警官……の向こう側にいるはずの男に殺意を抱いた。
これほど純粋な殺意は、生まれて初めてかもしれない。
こんな流暢な会話が出来るのだから、AIによるキャラクターではなく人間が操作しているのだろう。
「どうすれば終身刑から逃れられる?」
「被害者と示談して、不起訴処分にしてもらうしかないな」
「示談だと……捕まっているのに示談もねぇだろう」
「安心しろ、この世界にも法律はある。国選弁護人の立ち合いの下で、被害者……今回の場合は被害者の保護者だな、面談の機会を設けてやる」
「そこで示談すれば、不起訴になるのか?」
「貴様の態度次第だな。反省が見られないなら、起訴されて有罪になる可能性もある」
「ふざっけんな!」
「ほらほら、言ってるそばからそんな態度じゃ先が思いやられるぞ」
「くそっ……」
どんなに足掻こうと、主導権は完全に向こうに握られてしまっている。
相手がボロを出すまでは、従順な振りをするしかなさそうだ。
「それじゃあ、国選弁護人を呼んで来てやる……」
暴力警官が部屋を出ると、入れ替わりにヨレヨレのスーツを着た、しょぼくれた中年男が入って来た。
「私は弁護人の古田といいます。こちら、貴方の身元に間違いは無いですかな?」
「な、なんで、俺の個人情報が……」
古田の差し出したタブレットには、俺の本名、住所、生年月日、勤務先とその住所などの個人情報が表示されていた。
考えてみれば、先程もSNSのアカウントを乗っ取られていたし、ゲーム機経由で家にあるパソコンやスマホもハッキングされているのだろう。
「間違いない……それで、どうすればいいんだ?」
「これから、被害者の父親と面談してもらいます。お分かりかとは思いますが、先方は大変ご立腹ですから、これ以上機嫌を損ねるような事になれば……」
「分かってる。平謝りに徹すればいいんだろう?」
「そうですが、気持ちの全くこもっていない謝罪は、かえって相手の怒りの火に油を注ぐ事になりますから注意して下さい。それと……」
「まだ何かあるのかよ」
「多少の暴力は覚悟しておいて下さい」
「ふざっ……分かったよ、我慢すればいいんだろう、我慢すれば……」
叫ぼうとした瞬間に古田に指を突き付けられ、自分の置かれている状況を思い出させられた。
ストレスが、黒い澱のように胸の底に溜まっていく。
「では、行きましょう……」
古田と一緒に取調室を出る。
ここで逃亡を図ったらどうなるだろうかと思ったが、廊下には暴力警官が待ち構えていて俺のズボンの腰の辺りを掴み、吊り上げるようにして面会室へと連行した。
面会室は二十畳以上ありそうな広い部屋で、机も椅子も置かれていないガランとした空間だった。
そこに三十代ぐらいのサラリーマン風の男が、顔を真っ赤にして拳を握っていた。
「被害者の父親、鈴木さんです」
古田に紹介されて、とりあえず頭を下げることにした。
「この度は、娘さんに……」
「このクズがぁ!」
頭を下げたところに、いきなり右フックを叩きこまれた。
手錠は外されていたが、予想もしていなかったのでノーガードでくらってしまった。
思わず膝をつくと、今度は鳩尾に蹴りを入れられた。
「ぐぇぇ……」
「死ね、死ね、死ね、死んで詫びろ、このクズが!」
鈴木は俺を罵倒しながら、蹴り、踏みつけてくる。
顔、脇腹、腿、背中……加減の欠片も感じられない暴力に体が軋み、意識が朦朧としてくる。
表面的な痛みだけでなく、骨身に染みるような痛みを感じるし、殴られた箇所には現実と同じように鈍痛が残っている。
現実の肉体を痛めつけられている訳ではないのに、現実以上の痛み、現実と同じように蓄積していくダメージに心が折れてしまった。
「やめ、やめてくれ……頼む……」
「ふざけるな! お前はうちの娘がやめてと頼んだときにやめたか? やめなかっただろうが、このクズが! 死ね、死ね、死ねぇ!」
「助けて……何でもする……助けて……うぎゃぁぁぁぁ!」
視界の端に映った暴力警官に助けを求めて伸ばした手を鈴木に踏みつけられ、骨の折れる鈍い音が聞え、激しい痛みが右手を伝って脳に突き刺さった。
「鈴木さん、そこまでだ……」
「止めないで下さい、お巡りさん」
「いいや、止めますよ。これ以上やって、このクズが死んでしまったら、私は貴方を逮捕しなければならなくなる。貴方には、お嬢さんが元のような生活に戻れるように支えるという大切な役目がある。ここは、グッと堪えて下さい」
「くぅぅ……くそぉぉぉぉ!」
絶叫した鈴木が、俺の顔面目掛けて放った蹴りは、鼻面すれすれで止められた。
俺は痛みのせいか、恐怖のせいか失禁していた。
この失禁はゲームの中だけの出来事なのか、それとも現実の俺も失禁しているのか、もう全く判断出来なくなっている。
いつの間にか面会室には机と椅子が現れて、俺は折り畳みの安っぽい椅子に座らされた。
殴られ、蹴られた箇所は、今もズキズキと痛み、熱を持っている気がする。
壁に掛けられた鏡に映った俺の顔は、別人のように青黒く腫れ上がっていた。
手錠が外されたままだが、抵抗する気力は残っていない。
「では、これより示談にともなう賠償金の交渉を行います」
国選弁護人である古田の言葉は、耳鳴りのせいで何処か遠くから響いてくるようで、全く内容が頭に入って来ない。
どのみち認めるしかないのだからと、ひたすら頷き続けた。
強制性交に対する慰謝料四百万円、膣裂傷などの治療費及び入院費として二百万円、心機一転やり直すための引っ越し費用三百万円、鈴木の転職に関わる逸失利益五百万円、合計金額は千四百万円にもなった。
「甲は乙に対して、これらの支払いを行うものとする……」
「こちらの世界に口座をお持ちでないようなので、現実世界の口座からの引き落としを行います……」
「口座残高が不足していますので、キャッシングによる借り入れを行います」
「こちらに署名を……」
タブレットに表示された署名欄にタッチペンで名前を書き込む。
「生体認証を……」
カメラによって虹彩認証用の画像が撮影される。
「こちらの承認ボタンを……」
再びタッチペンで、いくつかの承認ボタンを押していった。
「支払いが確認されました……」
「乙は甲からの賠償金を受け取ったので、甲の起こした強制性交に対して示談を認めるものとする……」
暴行による痛みと発熱により朦朧とする意識の中で、俺は古田に言われるまま承認を続けた。
もうどうでも良いから、一刻も早く解放されたかった。
この全身の痛みと発熱は、本当にゲームだけのものなのだろうか。
現実世界の俺が、侵入してきた誰かに殴られ、蹴られたのではなかろうか……。
いつの間にか古田も鈴木も姿を消し、暴力警官に引きずられるようにして部屋を出ると、場面が変わって警察署の入り口に俺は立っていた。
「もう二度と、こんな真似をするんじゃないぞ」
「頼む……ここから出してくれ」
ログアウトさせてくれと頼むと、暴力警官は警察署から続く道を無言で指差した。
歩いて行けばログアウトのボタンが見つかるのだろうか。
俺は暴力警官に背を向けて、トボトボと道を歩き始めた。
一歩足を運ぶごとに痛みが走る。
ログインしてから、どれほどの時間が経過しているのかも分からない。
唯々、現実の世界へと戻りたい……その一心だった。
日が暮れていく田舎道を歩いていると、前方に赤いランドセルが見えた。
心臓がドキリとして思わず足を止める。
ランドセルを背負った少女が歩いていく先には、打ち捨てられた古い農家が見えた。
「なんだよ……俺にどうしろって言うんだよ……」
気が付くと、俺の足が勝手に動いていた。
歩くたびに体に痛みが走るが、悲鳴を上げようとしても声が出ない。
ランドセルの少女も同じ方向へ歩いているが、大人と子供では歩幅が違うから距離がドンドン縮まっていく。
「よせ……やめろ……もうあんな思いはたくさんだ!」
確かに叫んでいるはずなのに、全く声が出ない。
俺の体は勝手に足を速めて、やがてランドセルの少女に追いついた。
口が勝手に動いて少女に声を掛ける。
「お嬢ちゃん、ちょっと手を貸してほしいんだ……」
「いいよ……」
俺が覆いかぶさろうとした瞬間、振り向いた少女の手には大振りのサバイバルナイフが握られていた。
「私が人生からログアウトさせてあげる……」
「うぎゃぁぁぁぁぁ!」
左胸に滑り込んでくる冷たい金属の感触、直後に焼け付くような激しい痛みを感じて俺は意識を失った……。
「うぅ……あぁぁ……」
意識を取り戻した俺は、自室に置かれたゲームポッドの中にいた。
上半身は吐瀉物にまみれ、下半身は失禁によって冷たく濡れている。
直前まで感じていた暴行による全身の痛みや熱っぽさ、それにナイフで刺された痛みは綺麗さっぱり消えていた。
「くそっ、くそっ、くそっ! ぜってー許さねぇ! ぶっ殺してやる!」
俺は喚き散らした後で、シャワーを浴びて着替えた。
昼過ぎからゲームを始めたのに、時計の針はもう日付が変わろうとしていた。
猛烈な空腹に耐えられず、大盛のカップ焼きそばで腹を満たし、ストロングな缶チューハイを一気飲みする。
汚物まみれのゲームポッドの掃除は後回しにして、ゲーム機を起動してログを保存しようとしたのだが、ログどころかインストールした裏ゲームまでが消去されていた。
「くそっ……どうなってんだよ」
スマホでSNSのアプリを開いてみるが、昨日年末最後の仕事が終わったという書き込みの後には何も書き込まれていない。
不正なログインの知らせも届いていない。
「くそっ! 何にも残ってねぇ……そうだ!」
裏ゲームを入手したサイトを辿ろうと、パソコンを起動させたのだが、ブラウザの閲覧履歴は綺麗に消去されていた。
「腹立つ……最悪のクソゲーだな」
苛立ちを紛らわすために、もう一本缶チューハイを開けて、ゲーム関連の掲示板を見に行った。
すると、一種の祭り状態になっていた。
「閉じ込められた……」
「最初は神ゲーだと思ったのに……」
「クソ・オブ・ザ・クソ!」
俺以外にも、リアル・レイプの被害にあった者達の書き込みが続いていた。
「五百万やられた……」
「俺は七百だ……」
「同じく七百万……」
書き込みを見て血の気が引き、ストロングな酔いが一気に醒めた。
慌ててメールアプリを開くと、複数のクレジット会社からの利用確認メールが届いている。
借入金の合計金額は、千四百万円。
掲示板サイトでは、被害金を取り戻せるのか、警察に届け出るべきなのか侃々諤々の討論が繰り広げられている。
「バーカ……届け出るに決まってんだろう。ぜってー追い詰めてやる、ぜってー取り戻してやるからな! 覚悟しやがれ!」
自分の恥なんかどうでもいい。
コケにしやがった連中を追い詰めるために、俺は付け焼刃の知識を仕入れるべく法律サイトの検索を始めた。
──── 完 ────
バーチャル・レイプ 篠浦 知螺 @shinoura-chira
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