第8話 男のロマン
冒険者ギルドとは話がついたので、遊びがてら草木の実を収集する。
以前の俺の感覚では、最低葡萄の実くらいの大きさの実を集める事にした。
だが直ぐには集めない。
何故って、ファル探知センサー所有のティアに感づかれる恐れが有るから、当分遊びに専念するよ。
今日も転移魔法で目一杯高い所まで上がり落ちながら遠くを見回す。
決めた、雪を被った山並みを遠くに見つけたので、そこに向かう事にした。
《ファル見っけ》
<ゲッ>ティアとその一族ってか金魚の糞達ではないか、はぁー此処で逃げると後が厄介だからなー。
仕方がない果物探しで誤魔化すか、序でにギルドに渡す実を溜める、一石二鳥作戦開始♪
《ティア何か珍しい草木の実知らない?》
《この近くに珍しい草木の実なんて、有るわけないでしょ》
《仕方がない今日も風に吹かれて、行き先を決めるか》
《ファルつまんない遊びまだしてんの》
《ティア之は男のロマン何だよ。解って貰えないのが残念だ》(ニヒルに決めたぜ)
《つまんない男はモテないわよ》
《ファル可哀相ね》
《はいはいテノも可哀相ね》
《ファル美味しそうな実を見つけたら、持って来なさいよ》
ゴキブリが偉そうに命令して飛び去ったよ、やれやれだね。
《あれキラフとアラフは行かないの》
《ファル俺達は男だぜ男のロマンに付き合うさ、何を企んでる》
《飛びながら話すよ》
三人で雪山の見えた方角に飛びながら訳を話す。
《それってどれくらい飛ぶの》
《さあ2~3日か4~5日くらいじゃね。途中草木の実を探しながら行くから倍は見ておく必要はあるな》
《ほほう男の旅だな、行こうぜ》
《付き合うよ、珍しい草木の実は自慢の種になるからな》
こうして俺達は雪山に向かって飛び始めた。
ひたすら飛び続け二日目の夕方に、一際高い樹の良く葉の繁った枝先に、ハンモックを吊して夜営する。
《二人ともこの辺りに来たこと在るかい》
《無いね初めてだよ》
《俺も初めてさ、明日から草木の実を探しながら行こうよ》
《だな見たこと無い実を探そうか》
それからは樹上をかすめて飛ぶのを止めて樹間を縫う様に飛ぶ
《ウヮッブ》うえー何だこりゃー
空中停止・・・ぷらーんって擬音が付きそうな態勢だ。
にゃろ、蜘蛛助の野郎変な場所に巣を張りやがって。
ふん、この程度の巣でファル様を取って食おうなんざ、100年早いわ!
《ファル何してんの?》
《うんにゃ蜘蛛助の巣に引っ掛かってよ》
《こんなのは一度後ろにと》
ビューンっと引っ張って・・・引っ張って、ん。
おかしいなはずれないにゃい、ゴキブリほいとなより強力な糸だぞ。
《ファル、蜘蛛が出て来たよ》
何とまぁ派手なお方、お前は歌舞伎役者かヅカの回し者か。長い手足を器用に動かしているが、もつれてこけないのかねぇ。
もうちょいこっちへおいで♪ ヘッヘッヘッ、此処だ!
蜘蛛の巣に引っ掛かっていた防御結界を解除して、伸びきった蜘蛛の巣から離れる。
伸びきった巣は反動で反対方向に揺れると同時に、蜘蛛助の奴は反対方向に飛ばされ・・・ん
しぶとい未だ巣から落ちてない、ならファル様を餌にしようとしたお仕置きだ。
蜘蛛助のお腹を火炙りにして、腹の毛を燃やしてやった。
二度と俺に手を出すな!
違った、俺の通り道に巣を張るな!!!
まったく余計な手間を掛けさせやがって、ん・・・蜘蛛助は売れないのかな。
いや止めておこう、蜘蛛助なんて空間収納に納めたら食料が不味くなる。
《ファル此れなんてどうかな》
どれどれ、ちょっと人族には小さ過ぎるな。
《キラフ俺達の手には丁度いいが、人族には小さすぎるよ》
《ん、人族ってなんだ、ファル何を企んでいる。教えろよ》
《ファル俺達の仲で秘密は無しだぞ》
《そそ、話せよ》
お前達ってティアに一喝されると、直ぐにペラペラ喋るから信用ならないんだよな。
口を滑らせたのは俺の失敗だ、一応秘密厳守を約束させて教えるか。
《キラフ,アラフ秘密は守れるか、特にティアには喋らないって約束出来る》
《おお、俺は男だ約束は守るぜ》
《ティアに秘密は不味いんじゃないの、怖いぜティアは》
キラフの野郎ウッって顔していやがる。
まぁ余計な一言を言った俺も悪かったから教えるか。
《珍しい木の実を人族に売るのさ》
《人族に売るって、どゆこと》
《この間人族の所で、人族の作る果実を沢山手に入れただろう》
《あれは美味かったな、皆大喜びだったね》
《ユリヤと行った大きな家に、木の実を持って行くと役に立つなら買ってくれるんだよ》
《役に立つって、食べないの?》
《薬・・・人族の病気や怪我を治す物に使うんだと》
《えっ、人族って治癒魔法使えないの》
《居ると思うぞ、でも数は少なそうだな。ティアみたいにホイホイ治せるなら用は無いだろう》
《で、売るってなんだよ》
《人族の所で果実と引き換えに、渡していた物を覚えているだろう》
《あの丸っこい物な》
《これな》
銀貨,銅貨,鉄貨を取り出して見せる。
《おぉこれこれティアが渡していたな》
《集めた木の実を、ユリヤと行った家に持って行くと、これと交換してくれるのさ》
《へぇー、ファルって頭良いのな》
《いつの間にそんな約束したんだよ》
《キラフよく考えろよ、ティアの居る前でそんな話をしてみろ》
《ティアってユリヤにべったりだったな》
《ティアって案外惚れっぽいのな》
《そこじゃ無いよ、ティアに余計な事を教えると後が面倒なんだよ。あれこれ命令してきて煩いぞ》
《アラフ,ティアの前で惚れっぽいなんて言ってみろ》
《確実にあの世行きだね。その点ファルは、ティア相手によくやるよ。怖くないの》
《産まれた時から、半分ティアに育てられたようなものだからな。毎日が死ぬ思いで生きてきたから、馴れてるんだ》
《ファルって凄えよな》
《考えてもみろよ、殺す気で魔法を撃って来るんだぞ。死んだらどうするんだって文句を言ったら、治してやるってさ。お前は死人も治せるのかって聞いたとき、奴はなんて言ったと思う。『うーん、無理かな』だぞ。馴れてなきゃとうに死んでるさ》
《馴れてるって、ちょっと違うと思うけどなぁ》
まぁいい実は小さいが、一枝に沢山なっているから枝ごと持って行くか。
日本でも薬草なんて、小さな木の実から葉っぱに根っこと様々だったからな。
3人とも鑑定を使えないので、適当な大きさの実を収穫しながら、雪山を目指す。
《あっポポフの実みーっけた》
《偉いアラフ、これだけ有れば少しティアに渡して、ご機嫌取っておけるな》
《甘い! ティアが好物のポポフの実を、少しだけで満足すると思うか》
《確かに全部取り上げられるな。半分ファルに預けておくよ》
《んだな、ファルならティアに逆らえるから、死守してくれるな》
結局俺かよ、俺の危険度が上がるだけだよ。
見るからに毒々しい赤紫の棘々の実に、葡萄の房に似た青黒い実がたっぷり付いた物。
青りんごの実にクロッカスの花が咲いている不思議な実に、まるで頑固親父って人相の梨に似た物。
内緒で頑固親父って名付けてしまったよ。
キラフとアラフは、凸凹の実って呼んでるけどな。
俺の身長より長くて太い、ズッキーニみたいなノッペラ(俺命名)
大量にハゼの木の実に似た物は、枝垂れ桜の様に実の重みで垂れ下がっていた。
勿論クルプとクラプの実もしっかり採取した。
知らない実は各20個を採取して、10個は冒険者ギルドのオッサンに渡し、必要かどうか見てもらう。
残り10個は、集落で食べられるかどうか鑑定して貰らうのさ。
魔力の実は2ヶ所で見つけ、たっぷり収穫したね。
味も俺は気に入ったが、アラフは気に入らない様だった。
この辺は同じ魔力の実でも、個人の味覚の差が出て面白いね。
今回はこの辺りで引き返す事にした、結果が良ければ次回に期待だな。
結局5日飛んで2日で集落まで帰り、キュラパパとミュラママにただいまのご挨拶。
ティアに見つかる前に鑑定持ちに収穫物を鑑定してもらう。
ここでファル探知センサー持ちのティア登場、アラフの持つポポフの実を全て召し上げてご満悦で消え去る。
嵐のような盗賊行為だが誰も何も言わない。
泣きそうな顔のアラフとガクブルのキラフ、俺の事を喋らなかった事を褒めてつかわすぞ。
◇ ◇ ◇
《ヤッホーガルダのおっさん。ファルだよ》
「おお、何時ぞやのちびっ子かい」
《わかんないよ。頭の中で喋ってよ》
《かー、面倒くせえガキだな》
《ガキじゃないよ、ファルだよおっさん》
《はいはいファルちゃんね。で、何か持って来たのかい》
《んー、人族が必要かどうか解んないんだけどね。森の奥に行って知らない木の実を集めてきたよ》
《よーし、じゃー此処に出してみろ》
ガルダのおっさんが出してきたお盆の上に、集めた木の実を並べていく。
先ず俺様命名のノッペラを10個置く、ハゼの木の実に似たやつは多すぎて収まらないので別の入れ物を出してもらう。
梨に似た頑固親父を10個、青リンゴに似たもの10個、赤紫の棘々の実10個、葡萄の房に似た青黒い実10個、実は小さいが一枝に沢山なっている訳の解らないもの一つ。
《取り敢えず今日はこれで勘弁してやろう。役に立つか鑑定してね》
俺って妖精? 暇野無学 @mnmssg1951
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