最終話 世界を救うため

 魔王城の最上階に着くと、悪の召喚術師ビースが馬鹿にしたように笑っていた。


「ふぁっふぁ! よくものうのうと戻ってこられたのう。それに、姫さんも一緒とは。同じ召喚術師だから分かるが、異世界から勇者を召喚したあんたじゃ、賢者を召喚できる魔力は残ってないだろうに」


「勝てない戦いに巻き込んでしまった罪滅ぼしで、最後は共に散りに来たのです……とでも言ってほしいのかしら? 残念ながら、魔王を倒す術はあるわ。覚悟しなさい!」


 レイト姫は王の空気嫁を掲げて、魂召喚の詠唱を始めた。


「異世界に存在するという【けんじゃ】とやら、あなたの力が必要です。魔王を倒すこのひと時、魂をこの人形に宿したまえ!」


 空気嫁がまばゆい光を放ち、魂の主の容姿に変化していく。

 魔王を守護している結界は、勇者と賢者が同時に触れることで消滅できるとのことなので、直ぐに状況説明をして協力してもらう手はずだ。

 賢者はその名の通り賢いはずなので、理解してくれるだろう。


 ……女賢者! 女賢者! 女賢者!


 光が収まると、期待していた女賢者ではなく、日焼けをしたマッチョの男性になっていた。

 賢者のイメージとは反していたが、強そうな見た目で頼りになりそうだと思った。


「賢者さん、急ですみませんが、俺と一緒にあの結界に触れてください。それでこの世界が救われますので」


「んぁー……はぁー……ちょま……おとことおん……ちが……」


「賢者さん? ヤバイ! 言葉通じないのか?」


 レイト姫が首を横に振った。


「いいえ、翻訳魔法で通じているはずです。しょうがないです。健斗様が担いで結界に突っ込んでください!」


 生気のない顔でボケッとしている賢者人形をわきに抱えて、結界に向かって走った。

 魔王やビースが攻撃をしてくるが、仲間たちが守ってくれている。

 そして、結界のすぐ外側まで到着した。仲間たちの背中を押す声が聞こえる。


『行っけーーーーー!』


 賢者人形の手を取り結界に触れようとした時、賢者人形が急にしゃべりだした。


「よし、回復したー! お待たせミキちゃん。2回戦いくぞー!」


 次の瞬間、賢者人形は元の空気嫁に戻ってしまった。

 俺は慌てて人形と結界に触れてみるも、何にも起こらない。


「ヤバイ! 時間切れか」


 このままではやられるので、レイト姫の居る場所まで下がることにした。


「何がしたかったんだい? もうあきらめてしまえば楽になるのにねぇ」


 ビースはあきれて座ってしまった。

 レイト姫の元に着くと、頭を抱えていた。


「どうしてでしょう? こんなに早く終わるはずないのですが……」


「王様は早いから、短時間の設定でつくられたのか?」


「何のことですか?」


 今はそんなくだらない事関係ないと思っていたが、一緒に考えているうちに白い糸で繋がった。


 ……もしかして、さっき召喚した魂は、賢者じゃなくて賢者モードだったんじゃないのか?


 生気のない顔。最初にブツブツ言っていた言葉。

 それに、最後の言葉は賢者モードが解けたのだと予想される。だから、賢者ではなくなったので召喚が不成立になったのだと悟った。


 ……こんなのみんなに報告できねーよ。


「もう一度撤退するぞ!」


「そうはさせないよ」


 魔法使いのセンに帰還魔法を頼もうとした時、魔王から闇の触手が伸びてきて、結界の中にセンが引きずり込まれてしまった。


 絶体絶命の状況。

 仲間達は敗北を悟り、絶望的な表情で立ち尽くしていた。

 しかし、この状況を覆す方法を俺は知っている。


「皆、聞いてくれ。最悪最低なやり方だけど、勝てる方法が見つかった。皆の意見次第で実行に移すけど、どうする?」


 皆の顔に生気が戻って、3人は俺の腕をつかんで見つめてくる。

 レイト姫が泣きながらお願いしてきた。


「この状況を覆すことができて、最低最悪なものなんてありません! 勇者健斗様、この世界を救ってください!」


 戦士のバールとヒーラーのプラグの顔を見ると、目に涙を蓄えながらうなずいてくれたので、作戦実行の決心をした。


「バールには手伝ってほしいことがある。この作戦は、俺は正気を保っていないかもしれない。だから、バールの力で俺を結界に放り込んでほしい。そうすれば、結界が消滅するはずだから一斉攻撃だ!」


「よくわからんけど、あーし頑張るよ!」


 準備は整った。


「勇者健斗。世界を救うために賢者になります!」


 俺は目の前にいる3人の装備を一瞬ですべてはがし、6つの山、2つの草原、1つの更地を確認して、自分の世界から持ってきた剣を放り出した。


『キャーーーーー!』


 敵の異常な状況に、ビースが驚きながら言った。


「勝ち目がないと知って勇者が血迷ったのか!? ふぇっふぇっふぇ。仮にも勇者が最後は欲に走るとは、情けないねぇ……」


 登山をして、草原や更地を駆け回り、落とし穴に落ちると賢者の雫が弧を描いた。


「バ、バール……い、今だ」


「死ねーーーーークソ勇者ーーーーーーー!」


 勇者兼賢者になった俺は結界に放り投げられたが、けだるさで何もかもがどうでもよくなっている。

 俺が結界に当たると、狙い通り消滅することができた。

 仲間たちは怒りに任せて暴れまわり、勇者なしで魔王とビースを倒していた。


 そして、我に返った俺は魔王を倒したことを喜び、レイト姫に婚約の事を問う。


「勘違いするなよクソが! お前は結界を消滅させただけ。実際に魔王を倒したのは私たちなんだよ!」


「そりゃーないよ! それじゃあ、セン! 俺と結婚してくれ!」


「あなたはこの世界のゴミです。元の世界に帰って下さい」


 レイト姫が俺に手をかざして詠唱を始めた。


「殺さないだけでもありがたく思え」


「最低最悪なものなんてありませんって、言ってたじゃんか……」




 目を覚ますと、演劇サークルの練習場の真ん中で、全裸で倒れていた。


「キャーーーー! 勇者役の健斗さんが全裸になっている! 警察呼んで!」


 俺は正義感の強い男子学生に抑えられ、そのまま警察に連行された。


「どうすればよかったんだよ!」

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召喚勇者、賢者兼任~ハーレムパーティーで魔王討伐~ マーナリ @ma-nari

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