第3話 魔王の結界

 魔王城の最上階。

 見上げるほどの巨人をイメージしていたが、魔王は人の大人くらいの大きさの様だ。

 濃霧のうむに包まれた結界のせいで容姿はよく見えないが、威圧感はひしひしと伝わってきた。


「うりやーーーー!」


 いつものように戦士バールが強引に斬りかかったが、結界にはばまれてはじかれてしまう。


「クソ! これじゃあ攻撃が当てられない」


 すると、魔王の後ろから魔女の様な老婆が不気味に笑いながら現れた。


「フッフッフッフ! あなた達は、この結界にキズ一つ付けることはできないよ。絶対にね」


「誰だ!」


「ワシは、世界を征服するためにこの魔王を召喚した、召喚術師のビースじゃ。この結界は、この世界の人間では解けないようにワシがつくった。いくらあなた達が強くても、倒せまいよ」


 ビースの言葉で俺は勝ちを確信して、得意げに言い放った。


「ハッハッハ! バーさんよ、俺はこの世界の人ではない。勇者として召喚された異世界人だぞ!」


 仲間のみんなも勝てると思ったのか、笑みを浮かべながら武器を構えなおした。


「あんたが勇者? ずいぶんバカ面な勇者だね。もちろん、勇者が召喚されたことは、ワシの耳に入っているよ。でも、勇者だけでは足りないのだよ」


「俺はこの旅で、勇者として十分強くなった。何も足りないことはない! みんな、いくぞ!」


 俺たちは持てるすべての力で魔王に攻撃をしたが、結界のせいでダメージを与えることができなかった。


「だから言ったじゃろって。どうせ死ぬので特別に教えるが、この結界はこの世界に存在しない者、勇者と賢者が寸分たがわずに触れることで解除できる。この世界では最強の結界なのじゃよ」


 賢者とは何かを理解していない仲間たちは、絶望したまま固まっていた。


「さあ、魔王よ。こやつらを倒しておやりなさい」


 魔王から生えた太い腕の様な黒いもやが、俺たちパーティーをなぎ払う。

 しかし、魔法使いセンが皆をシールドで守ってくれたので、一命をとりとめることはできた。

 ダメージを与えられないのであれば、絶対に勝てるはずがない。

 俺は逃げ帰る決心をした。


「センちゃん、帰還魔法だ! 撤退するぞ!」


 俺たちパーティーは本拠地であるトゥーナ国の城に、何とか一時撤退することに成功した。



 すぐにレイト姫を呼び出して、魔王城の出来事を伝えた。


「皆さんが無事で何よりです。ですが、勇者召喚に魔力を使いすぎたせいで、賢者とやらを召喚することは当分できないのです。異世界から何かを召喚できる人は、私と悪の召喚術師だけですので、他にあてもありません……」


 レイト姫はうつむいたまま黙ってしまった。


「話は聞かせてもらった。我に考えがある」


 王様がやってきて、そのまま寝室に案内された。


「実は、レイトほどではないが、我も多少の召喚術を使えるのだ」


 王様は大きな自分のベットの下から、等身大の人の人形を取り出して説明してきた。


「レイトのように人一人を呼び出すことはできないが、魂だけを召喚し、この人形に一時的に定着させることはできるのだよ。この人形は特殊な魔力が込められているので、魂の主の容姿に変化してくれるしな」


「そうですわ! 異世界から賢者の魂だけを召喚して、人形に定着させればいいということですね!」


 王様が何のためにこの人形をベットの下に忍ばせていたのか?

 誰の魂を召喚していたのか?

 何に使用していたのか?

 色々と気になることはあったが、今はレイト姫がいるのできかないでおくことにした。


「魂の定着は数分間。レイトよ。娘にこんなことを頼みたくないのだが、勇者たちと同行し、魔王の前で賢者を召喚してきてくれ」


「もちろんです。魔王を倒すためなら喜んでお供します」


 新たな仲間をくわえて、魔王に再挑戦することになった。

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