お風呂のデジタル表示って、怖くないですか?
kayako
42℃ 0:00
金曜の23時、会社から帰宅。
誰もいないマンションの一室。当然、中は真っ暗。
へとへとになりながら、それでもお風呂のスイッチオン。
今日はせめて温かい湯舟でゆっくりしたい。
色々片付けているとあっという間に時は過ぎる。
早くお風呂に入って眠りたい。
私は汗だくの服を脱ぐと、すぐにシャワーを浴び始めた。
ちょうどお風呂が沸いたのか、浴室リモコンが
『オフロガ ワキマシタ』
と告げてきた。
意外とよく響いたその機械音声に、思わずびくっと壁を見た。
うちの給湯器は、浴室の壁に据え付けられているリモコンで操作する。
黒いデジタル表示盤には浴槽を模した箱が描かれ、中に「42℃」と表示されている。
湯が満タンに張られ、ほかほかと湯気が立つ様子も描かれている。
同時に「23:50」と時刻表示がされていた。
もう0時か。
そう思いながらシャワーを止め、ゆっくりと湯舟に浸かった。
凝り固まった身体に、じんわりとお湯の温かさが伝わってくる。
そうしているうちに、私はうとうとしてしまった。
駄目だ、お風呂で寝ては。
はっと顔を上げると、眼前の壁で、デジタル表示盤が点滅していた。
黒い画面の中で、「42℃」の文字だけが浮かび上がっている。
何故か表示はそれだけで――
さっきまで表示されていた湯気は消え、お湯の満タン表示もない。
ただ、浴槽の中で、「42℃」という文字だけが、点滅し続けている――
その横では「23:59」なる時刻表示。
時々こういうエラー表示が出るんだけど、なんかこの表示、嫌だなぁ。
湯気の温かみが、一緒に消えてしまう感じがして。
そう思って、風呂から上がりかけたその時。
バシャッ
部屋の外から響いた水音と共に、一斉に電気が消えた。
「!?
やっ……やだ、停電!?」
真っ暗になった浴室に響く、自分の悲鳴。
先ほどまでの温もりが、戦慄と共に消失していく。
そして――
私は気づいた。
闇の中に浮かび上がった、デジタル時計表示に。
それはちょうど0:00を示し、明滅し続けていた。
その横では相変わらず、「42℃」の文字が奇妙に大きく、時刻表示と交互に点滅していた。
停電しているはずなのに、何故。
声も上げられずその表示を見ていると――
何故かお湯の底から、つまり足元から、冷気が這い上がってきた。
浴槽に取り付けられた給湯口。そこから、氷のような何かが爪先を伝ってくる。
さっきまで、暖かいお湯で私を満たしてくれていた給湯口が、今や得体の知れない何かに変貌していた。
逃げようとしても、その冷気は足を捉えて離さない。
目をこらそうとしても、その正体は暗い水面の下。何も見えない。
どんなに叫ぼうとしても、その叫びは胸元を覆う冷気で圧し潰されていく。
無防備そのものの私を、浴槽の底からじわりと包み込んでいく、冷たい闇。
「42℃」を示しながら、白く点滅し続けるデジタル表示。
描かれた浴槽には――底がなかった。
最後に聞こえたものは――
よく響く、機械音声。
『アナタハ シニマシタ』
了
お風呂のデジタル表示って、怖くないですか? kayako @kayako001
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