第9話

「桜、大丈夫か?」


「うん。大丈夫だよ。ちょっと倒れちゃっただけ。へーきへーき!」


雨里の後に続いて保健室に入った無常が桜にそう尋ねると、桜は笑顔で答えた。


「でも、なんかちょっと身体が重い感じがするなぁ。」


 と、桜がつぶやくと雨里がハッとした表情になって


「…ごめんなさい!それ、私のせいなの。」


すると無常が不思議そうな表情をして訪ねた。


雨里のせい?どうしてだ?」


「あなた、崇徳院の爪攻撃当たったでしょ。実はあれ、爪、またはその斬撃にあたると崇徳院の呪いをかけられちゃうようになってるの。さっきは私が崇徳院の出力を10%にとどめたからこの呪いも身体が重い程度ですんでるけど、それでもごめんなさい。」


 すると桜は手を前に突き出して左右に振った。


「いいよいいよそんなの。大丈夫だよ!だってあれは試合だったもんね。仕方ないよ。それで、この呪いはいつ解けるの?」


「この程度だと一週間あれば元に戻ると思うわ。」


「そう。ならよかった!ありがとね!教えてくれて。」


「いえ、それはこちらのセリフよ。ありがとう。許してくれて。」


「それで、これからどうするんだ?桜はもう大丈夫なのか?」


桜は少し考えるそぶりを見せた後に応えた。


「うーん…もうちょっとここに居たい…かな?そだ!ちょっとだけでいいからさ、お話ししようよ!」


「私は大丈夫だけど…えーと…無常くん?は大丈夫なの?」


「うーん…俺の番までもう少しあるし…大丈夫だと思うよ。」


 すると桜の顔がパァッと明るくなった。


「やった!じゃあさ、自己紹介しよ!じゃあまず私からいくね。私は獣ヶ原けものがはらさくら。こっちは、私の固有魔術、使役しえきで使役した友達、カラスのしゃいちゃん!適正職はって出たよ。こんなとこかな。」


「あの、使役ってどういう魔術なの?」


 と雨里が質問すると


「なかなかいいしつもんですねぇ〜。私の固有魔術、使役は、自分よりレベルが下の動物だったら全部使役できるよ。でも、使役できるのは動物、しかも非魔族アンチアスモディアのなかの、と呼ばれる、異世界融合が始まる前にもともとこの地球に存在していた動物しか使役できないっていう条件があるんだけどね。」


 そう一気に説明した後、桜は深呼吸をして


「さ、次は雨里の番だよ!あなたのあの怖いお化け!あれどうやって出してるの?」


「あれはお化けじゃなくて怨霊。私の固有魔術は怨妖操術おんようそうじゅつ、正確には怨霊・妖怪操作術おんりょう・ようかいそうさじゅつって呼ばれるんだけどね。怨霊や妖怪が住む世界から怨霊や妖怪をを介して召喚するの。」


 すると桜が不思議そうな顔をして質問した。


「ゲート?ゲートってあの上にある月のことだよね?私からはゲートから召喚したようには見えなかったけど?」


「ゲートは自分でも作れるの。私のような怨霊や妖怪を召喚する人はゲートを自分で作ってそこから怨妖を召喚するのよ。」


 それを聞いた桜は目を輝かして


「ゲートって私でも作れる?」


と聞いた。すると雨里は頷きながら答えた。

 

「ええ。段階を踏めばあなたでも作れるわ。ただ、あなたの場合作っても使えるかどうかはわからないわね。ゲートっていうのは本来魔族アスモディアを召喚するためにが創ったものなの。私の場合、固有魔術が召喚する系統の魔術だから小さいゲートなら擬似的に作ることができるし、怨霊と妖怪だけに限定してなら召喚することができるのよ。」


 それを聞いた桜は残念そうな顔をして


「そうかぁ。作れないのかぁ。残念だけど、諦めるしかないね。」


 と割り切っていた。


「そして、私の適正職は、呪術師よ。さ、次は無常君よ。」


「わかった。俺の名前は魔無部まなべ無常なつねだ。固有魔術は…」


 とそこで無常は言葉を切った。


「無常君?どうしたの?」


 不思議に思った桜がそう聞くと、


「いや、なんでもない。途中で言葉を切って悪かった。俺の固有魔術は……虚無きょむだ。」


 そう言い切った無常の額には汗が滲んでいて、身体は軽く震えていた。


「無常君?大丈夫?」


 心配になった雨里が聞くと


「ああ、いや、ちょっと嫌な記憶を思い出しちゃってね。ごめんごめん。えっと、この魔術の効果は、俺もよく知らないんだ。」


「知らない?どうして?」


「幼い頃にちょっと…ね。そこから記憶が曖昧なんだ。分かることといえばこの魔術はってことだけだ。適正職は、奈落の王、だ。」


 それを聞いた瞬間雨里の顔色が一気に変化した。


「ちょっと待って。奈落の王?それってもしかして、『6大英王』の一つじゃない?」


無常は少し間を空けてからゆっくりと答えた。


「ああそうだ。俺は6大英王が1人、奈落の王、魔無部無常だ。」


「信じられない。どうしてあなたのような人がD組にいるの?」


「色々あってな。それに、俺は6大英王の中では最弱だし。」


「それでも十分すごいわよ。だってあの英王よ?普通なら入れないわよ。」


「ちょっとまって!話についていけないんだけど、6大英王って何?」


 すると、痺れを切らした桜が2人の会話を中断させた。


「6大英王っていうのはね、空の王、陸の王、海の王、奈落の王、天界の王、そして、王の王から成る6人の人のことよ。空、陸、海、奈落、天界は、本人の才能と努力で成れるものなんだけど、王の王は完全な努力よ。そこに才能の有無はないの。そしてその6人は魔力、身体能力が飛び抜けて高く、その力は、あの勇者や、魔王にも引けを取らないとも言われているわ。」


 それを聞いた桜は呆気に取られた顔をして、


「ほえ〜、無常君てすごいんだねぇ。」


「凄いどころじゃないわよこれは。だってあの勇者に引けを取らないのよ?それにしても本当になんでこんなクラスにいるのかしら。」


「これは誰にも言わないでほしい。そして、それはあんたも同じだろ。なんであの最強の崇徳院を召喚して、その力を制御し、力を引き出せるほどの魔力があるのにD組なんだ?」


 すると雨里は暗い顔になって


「私のところは色々とあるのよ。わかったわ。誰にも言わない。だから私のことも誰にも言わないでね?私実は……」


 そこで言葉を切ると、一瞬ためらったようにして


「やっぱやめるわ。言わないでおく。あなたのひみつももうちょっと聞き出したいしね。」


 無常はハア、とため息をついて


「勘弁してくれよ。もう俺に秘密なんてないぞ?」


「それより、無常君、あなた、時間はいいの?そろそろあなたの番なんじゃない?」


 と唐突に雨里が確認して、それを言われた無常が急いで時計を見ると、一時間が経過していた。


「ほんとだ。まずい。じゃあ俺はこれで抜けるわ。2人はもうちょっと休んでてくれ。」


「いや、私たちも行くわ。」


「そうか、なら急いでくれ、時間がない。」


 そう言いながらも保健室のドアを開けて無常は焦ったように走っていった。


「彼は不思議ね。」


 そう雨里がつぶやくと、


「うん。あの人はいい人だと思うよ。」


 返事になってない桜もそう言った。

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奈落の少年と虚無の魔術 ひみこ @yayoihimiko

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